# 拡散希望

Resetter

第1話 #拡散希望



 ――――――――――

 

 #拡散希望


 人を探しています。

 24歳の女性、出身は○○県○○市。

 一ヶ月ほど前に、遊びに行くと言って音信不通になりました。

 薄いグレーのニットワンピースを着用。

 ボカシの画像は以下。

 心当たりの方はDMください。

 詳細画像を送ります。

 

  【画像】

 

 ――――――――――


 SNS。

 

 それは最早、"人生"に溶け込んだものだ。


 

 とある日。


 見慣れたハッシュタグの付いた、不穏な記事が流れてきた。

 俺は、画像に興味をひかれ、タップする。

 

 

「へ~。スタイルいいな……」

 

 スリムだが出るとこは出ている妖艶な身体が、画面を彩る。完全に俺好みの体型だった。

 

 

「心当たりね……」


 こんな女性なら印象深いはず。見ていたなら覚えて――


「あ」


 思い出した。行きつけの新人店員だ。この身体つき……似ている気がする。

 

 だが、顔を見なければ分からない。それに、違っていてもいい。美女の画像は、いくらあっても困らない。

 

 そう思い、投稿主のプロフィールに飛んだ。

 


 ――――――――――


 投稿見ました。

 もしかしたら心当たりがあるかも知れません。

 写真送ってもらえますか?

 合っていそうならお知らせします。

 

        22:50

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 DMの返信を待つ間、投稿主の情報を見る。


 表記名、"しあわせな一時を"……。しあわせなひととき、だろうか。


 ID、@Shi_awase2_42……ね。そんなに幸せになりたいのか?

 


 記事数二十四件……少ないな。

 投稿内容もつまらない独り言ばかり。所在登録はもちろんない。


 アカウント作成は三年前――。

 

 

 ブンと、スマホが震えた。


 DMだ。新着が一件。

 例の投稿主"しあわせな一時を"からだ。……妙に早いな。

 

 

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 ご連絡ありがとうございます。

 全体画像を送ります。

 ご確認の上、再度のご連絡をお待ちしております。


  【画像】


       22:51 既読

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 送られてきた画像をタップし、拡大する。


「おお……」


 脳に電気が走る。思わず目を見開いた。

 想像通り……目鼻立ちは整っていて、切れ長でタレ目がち、少し薄幸そうな、すごい美人だった。


 ――いい素材を手に入れた。後でAI加工をしよう。


 

 そして……やはり、あの女性と似ている――。

 そういう意味でも使えそうだ。



 ニヤリと綻ぶその刹那。表情筋が逆方向に動く。

 

 再びスマホが震えたのだ。いい気分が台無しにされた。


 苛立ちまぎれに、新着を見る。


 投稿主だった。



 ――――――――――


 ご確認いただけましたか?

 本人でしたか?

 お返事お待ちしております。


       22:51 既読

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「チッ……」

 

 ――追いDMかよ。しつこいな。メンヘラか?


 嫌悪感が湧く。


 仕方なく、当たり障りのなさそうな文面を考える。



 

 ――――――――――


 確認しました。

 以前見かけた人に似ている気はします。

 ですが、知人ではないので、もう一度その方を確認してきます。

 その後連絡します。

 もし、別の画像があるのであれば、送ってください。


        22:53

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 また催促が来ると面倒くさい。と、こちらから連絡する旨を伝えてみた――が。


 送った瞬間に既読がつく。


 そしてすぐに――


 ブン。

 

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 承知しました。

 その似た方という女性のご確認、よろしくお願いいたします。

 追加の画像も添付します。

 お返事お待ちしております。

 

  【画像】

  【画像】

  【画像】


      22:53 既読

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 まさか画像が三枚も送られてくるとは。これも全部確認して――


 ブン。


 

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 画像はご確認いただけましたか?

 それぞれ別日に撮影したもので、距離も様々です。

 お役立てください。

 まだ画像等必要であれば、お申し付けください。

 音声、動画データもありますので、添付いたします。


  【音声】

  【動画】


       22:53 既読

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 秒速で確認なんか出来るわけないだろう!


 と、怒りに任せて開いたDMには、また添付データがあった。


 音声を加工する技術は持っていないが……人探しには必要な情報か。

 画像を確認したら、開いてみよう――。


 ブン。



 ――――――――――


 音声や動画はご確認いただけましたか?

 こちらのデータ流出はご遠慮ください。

 もし流出された場合は、それなりの対応を取らせていただきます。

 ご連絡お待ちしております。


       22:53 既読

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 なんだ? 勝手に送り付けたくせして脅すのか?


 拡散希望じゃないのか?


 本当に面倒くさい……が。


 返事をしておかないと、延々と来そうだ。



 

 ――――――――――


 後ほど確認します。

 またこちらから報告します。


        22:55

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 これでいいだろう。

 

 ふと、気付けばじっとりと額が湿っていた。


 ひとつ小さく息を吐く。


 だが、手駒は増えた。と、思うと同時に――


 ブン。


 

 ――――――――――


 至急のご連絡お、待ちしております。


       22:55 既読

 ――――――――――


 

 気味が悪いな。


 ――何が目的だ?


 これだけ大量のデータを短時間で送ってくるのは、明らかにおかしい。


 ……ストーカーか何かだろう。

 

 そう考えて、今日のところは風呂に入り、就寝することにした。


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