第11話 無意味な勝敗

闇の騎士の言葉は、アリスの胸に突き刺さり、光の覇王としての彼の使命を根底から揺さぶった。彼は、自身の光が世界を救う力だと信じていたが、もしそれが闇と同質の破壊衝動だとしたら?

闇の騎士は、その思案を見透かしたかのように、さらに追い打ちをかけた。


「光の覇王よ。お前が私を倒したところで、何が変わる? お前が放った力で、街は消し飛び、山は砕けた。それは、私がもたらす破壊と、どこが異なる?」


闇の騎士は、崩壊した大地を踏みしめながら、静かに、しかし絶対的な真実を語るかのように続けた。


「我々は、この古き世界の『矛盾』が生み出した双子の運命。お前が世界を救うというのなら、世界を滅ぼす役目もまた、私ではなく、お前の光が担うのだ」


そして、彼の言葉は、アリスの最後の抵抗の意志をも砕くかのように響いた。


「どちらが勝つかなど無意味なのだ。我々の存在は新世界を産み出すためなのだからな」

「勝敗は、この世界の終焉を示す指標にすぎない。お前が勝てば、浄化の炎で終焉を迎える。私が勝てば、虚無の闇で終焉を迎える。いずれにせよ、旧き世界は滅びる」


アリスは、自身の剣を握る手が汗で滑るのを感じた。


(全て、無意味だというのか? 父や母が命を懸けて守り、賢者が命を賭して託してくれたこの力が、ただの破壊の道具だというのか?)


彼の光のオーラが、一瞬、弱まった。彼の心に生じた迷いと絶望が、力を抑えつけたのだ。

闇の騎士は、その隙を見逃さなかった。彼は漆黒の剣をゆっくりと持ち上げた。


「さあ、光の覇王よ。無益な戦いを終わりにしろ。我々が共に世界を終わらせたとき、初めてお前の使命は完遂するのだ」


闇の騎士は、勝利を確信したかのように、終焉の刃を振り下ろす態勢に入った。


その瞬間、アリスの胸の奥底で、何かが弾けた。それは、賢者の教えでも、伝承の呪いでもない、彼自身の「心」から湧き出た、純粋な意志だった。


(破壊が、新しい世界を産む? 否!)


アリスは強く目を閉じた。彼の脳裏に浮かんだのは、かつて両親が彼を包んでいた温かい布の感触、そして賢者ヴェリタスの、最期の瞬間に見せた安堵の笑顔だった。


「違う!」アリスは叫んだ。


彼は闇の騎士の破壊の論理を否定した。破壊が新しい命を産むのではない。「守られた命」だけが、新しい未来を創るのだ。


「破壊が新しい世界を産むのではない。闇から希望を守り抜いた命が、未来を築くのだ!」


アリスは、自らの存在を否定し、世界から逃げた両親の悲しみ、そして、その両親を守ろうとした自分自身の愛こそが、この光の力の根源だと悟った。光の覇王は、ただ破壊するのではない。闇から守り抜くために存在するのだと。

彼は再び剣を構えた。その光は、もはや闇の騎士と同じく世界を消し飛ばすような「浄化の炎」ではない。それは、「命を守り、育むための、純粋な希望の光」へと変質していた。

闇の騎士は、アリスの光の変化に、初めて驚愕の表情を見せた。


「なんだ、その光は…」


「これが、光の覇王の真の力だ!」


アリスは、渾身の力を込めて、闇の騎士へと向かって駆け出した。破壊のための力ではなく、希望のための光を放ちながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る