第9話 光と闇の激突
聖なる山脈の頂で、運命の二極が激突した。
闇の騎士は、言葉少なに、しかし大地を揺るがす咆哮と共に、漆黒の剣『終焉の刃』を振り下ろした。その一撃は、単なる物理的な斬撃ではない。世界の「存在」を否定し、全てを「無」に帰す力を持っていた。
アリスは賢者から授かった剣技を魂の記憶から呼び起こし、光の剣を盾のように構えた。
闇の騎士の最初の横薙ぎ。それは、聖なる山脈の裾野にあった広大な森林地帯に向けられた。
一瞬の静寂の後、黒い波動が森を飲み込んだ。数千年をかけて育まれた生命の輝きが、秒速で色を失っていく。木々は根元から腐敗し、その葉は黒い塵となって崩れ落ちた。大地は粘土のようにどす黒く変質し、そこに生息していた全ての生命の痕跡が、腐り果て、消滅した。
大地が悲鳴を上げる中、闇の騎士はアリスに向き直った。
「その程度の光で、私を止められると思うか、覇王よ」
闇の騎士の凄まじい力に、アリスは激しい憤りを覚えた。彼の胸の光の印が灼熱し、全身から黄金のオーラが噴き出した。恐怖も悲しみも、全てを燃やし尽くすかのような純粋な怒り。
アリスは、自身の剣技に、その解放された「光の覇王」の力を込めた。
「世界を弄ぶな!」
彼は剣を天空に向けて突き上げ、次いで水平に薙ぎ払った。その一撃は、世界の浄化を望む、光の奔流だった。
光の奔流は、遥か彼方、海岸線近くにあった廃墟の街へと向かった。その街は、かつて闇の騎士の出現を恐れてアリスを追放しようとした、人々の営みの象徴だった。
しかし、アリスの光は、闇の侵食を許さない。光の波動が廃墟の街を通過した瞬間、闇に汚染された瓦礫も、腐敗した残骸も、その場に存在した全ての構造物が、光の粒子となって大気中に消し飛んだ。悪意も、恐怖も、そして過去の業も、完全に浄化されたかのように、跡形もなくなった。
闇の騎士は、アリスの力の解放に、微かに満足そうな表情を見せた。
「良い。ようやくその光を受け入れたか。だが、その力も、私にとっては糧にすぎぬ」
闇の騎士は剣を振り上げ、地を叩きつけた。この一撃は、闇の騎士の魔力の放出そのものだった。
その黒い衝撃波は、聖なる山脈の北側にある広大な湖へと直撃した。
湖の水は、闇の力に触れた瞬間、一滴残らず超高温の蒸気となって蒸発した。数千年の水脈が、ただの白煙となり、湖底の乾いた泥だけが、巨大なクレーターとなって残された。
その圧倒的な破壊力に、アリスは自らの力の暴走に対する制御を失いかけた。しかし、彼の脳裏に、賢者ヴェリタスの最期の言葉が響く。
「その光を信じろ」
アリスは絶叫と共に、光の剣を垂直に打ち下ろした。これは、『始源の剣技』の奥義の一つであり、世界に「光の秩序」を強制する一撃だった。
光の刃が地面に触れた瞬間、聖なる山脈そのものが震えた。闇の騎士が立っている足場、そして山脈の片側の巨大な岩盤が、アリスの放った純粋なエネルギーによって、粉々に砕け散り、巨大な音と共に谷底へと崩落した。
両者の戦いは、一合一合が世界そのものを書き換える、神話の時代以来の凄絶な激突となった。彼らの力は、世界の存亡を決めるだけでなく、世界の地形そのものを再構築していた。
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