第7話 運命の継承
ヴェリタスは、床に倒れていたアリスを抱き起こした。疲労と光の反動で意識は朦朧としているが、彼の胸の光の紋様は、諦念を帯びた賢者の決意に応えるように、静かに、だが力強く輝き始めていた。
「聞け、アリス。お前は今日まで、自身を封印する術しか学んでこなかった。それは、我々の希望であり、この世界が望んだ道だった」ヴェリタスの声は厳しく、しかし慈愛に満ちていた。「だが、闇はもう目覚めた。お前が光をどれほど恐れようと、闇の騎士は、お前の存在を感知し、世界へと進軍を開始した」
アリスは賢者の言葉を、意識の深い場所で受け止めた。彼は、自らの誕生がもたらした最悪の結果に、静かな恐怖を感じた。
「先生…やはり、私が原因で…」
「そうだ。お前こそが原因だ」ヴェリタスは断言した。「しかし、それはお前が悪いのではない。それは運命だ。伝承の通り、闇を止めることができるのは、光の覇王のみ」
ヴェリタスはアリスを祭壇の前に立たせた。そこには、修行のために使われていた、ただの飾り物としか見えなかった古代の剣が置かれている。
「今日まで、お前はその光を殺そうとした。だが、今この瞬間、その光を解き放ち、受け入れなければならない。お前の力は、世界を滅ぼすためのものではない。闇の騎士を滅ぼすために、お前の中に宿っているのだ」
ヴェリタスは祭壇の周囲に刻まれた古代文字の上に、自分の手のひらを置いた。その瞬間、祭壇全体が轟音と共に青白い魔力の光を放ち始めた。
「この術は、私が長年準備してきたものだ。お前が封印によって抑えつけてきた本来の力を、一時的に解放し、制御するための術。そして、光の覇王に伝わる『始源の剣技』をお前の魂に刻み込む」
ヴェリタスの体から、生命の力が急速に流れ出し、青白い光の奔流となってアリスの胸の光の紋様へと注ぎ込まれていく。ヴェリタスの肌は急速に乾燥し、その老いは一瞬にして数十年に及んだ。
「その剣を取れ、アリス。そして、自らの光を信じろ。それが闇への唯一の抵抗となる」
アリスは、賢者が命を削って捧げてくれた力に打たれ、震える手で祭壇の剣を握った。それはたちまち、彼が修行中に見ていたくすんだ剣ではなくなった。柄には金色の装飾が走り、刀身からは、抑えようのない、灼熱のような清浄な光が溢れ出した。
その光を浴びた瞬間、アリスの脳裏に、数多の剣の動き、力の流れ、そして「光の覇王」が代々受け継いできた戦いの記憶が一気に流れ込んだ。彼はもう、ただの怯えた少年ではない。彼は、世界が恐れ、追放した、光の覇王となったのだ。
ヴェリタスは、今や光のオーラを纏うアリスを見上げ、安堵の微笑みを浮かべた。彼の体は限界に達していた。
「行け、アリス。お前が光の存在を証明しなければ、世界は本当に闇に飲まれる。お前の出生は呪いではない。それは、最後の希望だ」
賢者は、静かに目を閉じた。アリスは、彼が命と引き換えに与えてくれた剣を強く握りしめた。彼の胸元で輝く紋様は、もはや恐怖の印ではない。それは、世界を救うために立ち上がった者の、運命の証となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます