エピローグ 夢から醒めた――その後で
目を開けると、白い天井があった。
蛍光灯、雨染み、消毒液の匂い。
遠くから運動部の掛け声。
現実だけが持つ、騒がしくて空虚な静けさ。
「……起きた?」
丸椅子に座っていたカオリが覗き込む。
「ここは……」
「学校の保健室。三日も寝てたのよ」
三日。あの永遠は、現実ではほんのわずかだった。
「夢オチって片付けたいけどさ」
マサトがカーテンを開ける。
「この擦り傷と疲労感、夢にしてはリアルすぎない?」
「そうね……」ユリナが苦笑する。
眩暈に耐えながら、俺は聞いた。
「……あいつは? ガイドは?」
三人の表情が凍る。
「誰のこと?」
名前が出てこない。
笑顔も、声も、霧のように溶けていく。
「……誰か、いたはずなのに」
「確実にいたわ」ユリナが手を握る。
「でも、思い出そうとすると消える」
沈黙。
日常の音だけが戻ってくる。
「……何か選んだ?」カオリの問いに、胸が熱くなる。
「分からない。ただ……半分は、まだあそこにいる気がする」
それ以上、誰も聞かなかった。
数日後。
部室で、名簿に消された一行を見つける。
「……丁寧すぎる消し方ね」
大事なものを、隠すみたいに。
帰り道、夕焼けの下で白い猫を見る。
目が合い、時間が止まる。次の瞬間、そこには空き缶だけ。
「……気のせいか」
その夜、夢は見なかった。
けれど眠りに落ちる直前、確かに聞こえた。
呼ばれた名前の、温もり。
思い出せなくてもいい。
その響きが残っている限り、世界は少し優しい。
――「ドリームランドと観光ガイド(帰還不可)」完
ドリームランドと観光ガイド(帰還不可) ――この世界、帰り道は恋の先―― NOFKI&NOFU @NOFKI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます