救国
ローブの人物は、深く一礼した。
「まずは、感謝を述べさせてほしい」
その動作は、驚くほど丁寧だった。
儀式めいていて、作法として完成されている。
「突然この世界へ召喚されたにも関わらず
混乱の中でなお、我らの要請を受け入れてくれたこと王国を代表し、心より感謝する」
一瞬、ざわめきが収まった。
怒りや不安が、完全に消えたわけじゃない。
けれど――
少なくとも、敵意を向けられているわけではないと、そう感じさせる態度だった。
「……王国を救えって言われても」
誰かが、小さく呟いた。
「俺たち、何も知らないんだけど」
「無論だ」
ローブの人物は、即座に頷いた。
「説明が足りていなかったのは事実だ
それは、こちらの落ち度だろう」
責任を認める。
それだけで、場の空気が少しだけ和らぐ。
「我が国は現在、魔族と呼ばれる存在と対峙している。
彼らは人類を敵と定め、各地で侵攻を続けている」
淡々とした口調。
感情を煽る言い方はしない。
「そして――
この世界の人類は、奴らに対抗するだけの力が足りない」
重い言葉だった。
「だからこそ、我らは“勇者”を必要とした」
その言葉に、誰かが息を呑む。
「貴殿らは、特別な存在だ
この世界の理に縛られず、力を得る資格を持つ者たち」
視線が、クラス全体をなぞる。
一人一人を、確かめるように。
「我らが召喚したのは、兵ではない
希望だ」
――希望。
綺麗な言葉だった。
あまりにも。
「もちろん、すぐに戦えとは言わない
王国は、貴殿らを保護し、支援する
訓練の場も、生活の場も、すべて用意する」
そこまで聞いて、
胸の奥に張りつめていたものが、少しだけ緩んだ。
「……本当に?」
誰かが、半信半疑で問いかける。
「無論だ」
ローブの人物は、迷いなく答えた。
「我らは、勇者に感謝している。
そして、敬意を払っている」
嘘を言っているようには、見えなかった。
ただ――
その言葉の中に、「選択肢」という概念だけが、最初から含まれていないことに、
僕はまだ気づいていなかった。
*
ローブの人物は、再び一歩前に出た。
「まず、貴殿らの安全について話そう」
その言葉に、空気がわずかに引き締まる。
「王国は、勇者を消耗品として扱うつもりはない」
「王都内では、魔族の侵入は完全に防がれている」
「貴殿らが暮らす王宮には、結界と常駐兵を配置している」
「訓練も、段階を踏んで行う。無理に戦場へ出すことはしない」
誰かが、ほっと息を吐いた。
「……すぐに殺し合い、ってわけじゃないんだな」
小さな安堵の声が、あちこちから漏れる。
「約束しよう」
ローブの人物は、はっきりと言った。
「少なくとも、王国の管理下にある限り、貴殿らの命は守られる」
――管理下にある限り。
その言葉が、妙に引っかかったが、
今は誰も深く突っ込もうとはしなかった。
「次に、この世界の“力”について説明する。ステータスと思い浮かべて頂きたい」
【ステータス】
ざわめきが起きる。
「やっぱゲームじゃん……」
「見える、俺にも……」
「これは、貴殿ら自身の能力を可視化したものだ
ただし、全員が同じものを持つわけではない」
その一言で、空気が変わった。
「この世界では――
“職業”を持つ者と、持たない者がいる」
「え?」
「職業……?」
視線が交錯する。
「職業を得た者は、その職業に応じた“スキル”を扱える
それは、この世界の理を超えた力だ」
誰かの表示が、一瞬強く光った。
「あっ……!」
「俺、なんか出てる!」
「私も……!」
全員ではない。
だが、確かに――
一部の生徒の前に、別の表示が浮かんでいた。
「すご……」
「これ、能力ってやつ?」
「職業には、固有のスキルがある」
ローブの人物は続ける。
「治癒、硬化、身体強化……
中には、戦況を一変させる力も存在する」
期待と、不安が入り混じった空気。
「そして、スキルは一つとは限らない」
どよめきが走る。
「成長や条件によって、複数のスキルを得る者もいる
勇者とは、そういう存在だ」
その言葉に、
胸を高鳴らせる者もいれば、
表情を硬くする者もいた。
「……職業が出なかった人は?」
誰かが、恐る恐る尋ねる。
ローブの人物は、首を横に振らない。
「心配はいらない
職業を持たずとも、貴殿らは勇者だ
この世界では、誰もが力を得ている」
それは、慰めにも聞こえたし、
線引きにも聞こえた。
「これから、貴殿らは訓練を受ける
力を知り、使い方を学び、役割を見つける」
淡々とした説明。
だが、その一つ一つが、
もう元の世界には戻れないことを、静かに告げていた。
まだ、よく分からない。
何が正しくて、何が間違っているのか。
ただ一つだけ、確かなことがあった。
――この世界では、
力を与えられた瞬間から、
もう無関係ではいられない。
異世界召喚されたクラスはシナリオに従い神々に遊ばされます 悠希 @sekiya28
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