第2章:王女と孤児の密約
「――離れろ、無礼者ッ!!」
リリアーナ様の涙に思考が停止していた俺の鼓膜を、怒号が震わせた。 我に返ると、護衛の騎士たちが抜剣寸前の形相で殺到してくるところだった。 無理もない。どこの馬の骨とも知れぬ泥だらけの孤児に、高貴な王女殿下が抱きついているのだ。不敬罪で即座に斬り捨てられても文句は言えない。
「ひっ……!」
院長が顔面蒼白で腰を抜かす。 俺は反射的にリリアーナ様を背後に庇おうとした。 だが、それより速く、俺の胸に顔を埋めていた少女が顔を上げた。
「――おやめなさい」
凛と響いた声は、十歳の少女のものではなかった。 それは、かつて社交界を支配し、王城の古狸たちを沈黙させた「未来の王女」の声色。
騎士たちがビクリと足を止める。 リリアーナ様は、濡れた頬を乱暴に拭うと、未だ涙に濡れた瞳で騎士団長を射抜くように見据えた。
「で、殿下……しかし、その薄汚い孤児が殿下に触れて……」
「私が触れたのです。彼が触れたのではありません。見ていなかったのですか?」
「は、はい、ですが……」
「この子は、私の運命の相手です」
「は?」
騎士団長だけでなく、その場にいた全員の口がポカンと開いた。俺もだ。 リリアーナ様、いくらなんでも飛ばしすぎではないだろうか。
「夢で見たのです。今日、この雨の日に、ここで彼と出会うと。これは女神の導きです」
リリアーナ様は平然と「予知夢」という大嘘をついた。 この世界において、王族の夢見は一種の神託として扱われることがある。それを悪用したのだ。
「院長」 「は、はいぃッ!」
「部屋を借ります。この子と二人だけで話をしたいの。……人払いをお願いできるかしら?」
「し、しかし殿下、二人きりなど……」
「『私の剣』になる者を見極めるのに、外野の言葉は不要です。……下がって」
最後の「下がって」には、有無を言わせぬ圧力が込められていた。 騎士団長が冷や汗を流して膝をつく。 前世ではあんなに儚げで、常に周囲に気を使っていた彼女が、こんな強引な振る舞いをするなんて。 ……俺のせいか。俺が世界を滅ぼすところを見せてしまったから、彼女も「手段を選んではいられない」と覚悟を決めてしまったのかもしれない。
俺は複雑な思いで、俺の手をぎゅっと握りしめて離さない彼女の小さすぎる手を見つめた。
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最愛の王女を殺されたので、敵国を滅ぼして消滅しました。~気がつけば過去に戻っていたので、二度目の人生は彼女を全力で溺愛して、邪魔する奴らは秒殺します~ @Shizuki_Meguru
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