第7話 負け犬の遠吠え
お開きの時間になり、皆が連絡先を交換し始めた。
真央は、誰とも交換しなかった。
普段なら、淳彦も自分から聞くことは絶対になかった。
聞かなくても、女は寄ってきたからだ。
――それでも。
「花崎さん……連絡先、伺ってもいいですか?」
自分でも驚くほど、勇気を振り絞った声だった。
「いいですよ」
真央はふっと笑い、淡々と連絡先を提示した。
それだけで、胸が高鳴った。
繋がれた。次がある。
それだけで十分だった。
その場は解散し、淳彦は夢見心地で帰宅した。
(花崎真央……)
(俺が求めていた女)
(俺に釣り合う女)
やっと見つけた。
そんな「運命」に似た感覚だった。
帰宅後、すぐにメッセージを送る。
「今日はありがとうございました。
よろしければ、今度ご都合のいい時にお食事でもいかがでしょうか?」
次に繋げたくて仕方がなかった。
――ピコン。
「いいですよ。〇日はどうですか?」
胸が踊った。
「ぜひ!〇時に〇駅はいかがでしょうか?」
間髪入れずに返す。
――ピコン。
「わかりました。それでは〇日に」
それだけで、淳彦の世界は明るくなった。
嬉しい。
それ以外の感情は、なかった。
翌日。
「比村!昨日はありがとうな!」
オフィスエントランスで、同期の秋元が声をかけてくる。
「あー、いいよ。楽しかったから」
本音だった。
淳彦にとって、あの飲み会は“収穫”だった。
仕事も、いつもより捗った。
真央に会える日が、待ち遠しかった。
淳彦は、まだ知らない。
この先、自分が
「選ぶ側」だと思い込んでいた足場が、静かに崩れていくことを。
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