第2話 負け犬の遠吠え
「淳彦!遅い!」
春香は腕を組み、少し不機嫌そうに立っていた。
春香(はるか)、28歳。
大手企業で事務職をしている女。友人の飲み会で知り合った。
「悪い。仕事で遅れた」
それだけ言って席に着く。
ディナーを食べ、酒を飲み、一夜を共にする。
何も特別じゃない、いつもの流れだった。
「ねぇ、淳彦は将来のこと、どう考えてるの?」
春香はベッドの中で、こちらに身体を寄せてくる。
その声は、どこか探るようだった。
「将来かぁ……まあ、ぼちぼちかな」
嘘だった。
考えるのが、ただ面倒なだけだ。
そもそも、春香と“付き合っている”つもりなど、淳彦にはなかった。
都合がいい女。
それ以上でも、それ以下でもない。
だが、今すぐ切るほどでもない。
まだ使える。
今は自由気ままに、縛られずに過ごしたい。
(春香は……もう、そろそろ終わりかな)
そう思った瞬間、心は一切揺れなかった。
淳彦の中で、春香の存在価値は、ほとんど消えていた。
「ぼちぼちって、何?」
春香の声が少し震えた。
「私、もう28だよ?
子供も……欲しいから……」
春香は子供を望んでいた。
もちろん、相手は淳彦だ。
(……ダルい)
胸の奥で、はっきりそう思った。
春香の期待と焦りが、重くのしかかる。
「そうだねー。
そのへんも、ちゃんと考えないとだよねー」
適当に言葉を並べる。
本心は、まるで伴っていなかった。
春香と結婚?
ありえない。
俺を“男”じゃなく、“条件”として見ている女なんて、論外だ。
年収、肩書き、将来性。
そんなもので俺を測る女は、ごまんといる。
俺に相応しい「いい女」は、いくらでもいる。
選ぶのは俺だ。
春香じゃ、満足できない。
(……そろそろ、切るか)
そう決めた瞬間、迷いはなかった。
淳彦の中で、春香との関係は、すでに終わっていた。
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