負け犬の遠吠え

余白

第1話 負け犬の遠吠え

俺は負けたんじゃない、「選ぶ側」なんだ。


比村 淳彦(ひむら あつひこ)、31歳。

大手外資系企業勤務。年収は同年代の平均を軽く超えている。


甘い顔立ちに、無駄のない体。学生時代から鍛えた筋肉は今も健在だ。身長も高く、スーツを着ればそれなりに様になる。学歴も、仕事の能力も申し分ない。


男も女も、自然と俺に寄ってくる。

それが当たり前の人生だった。


この世は楽勝。

俺のために存在していると言っても、過言じゃない。


「比村くん、この前の資料すごくよかったよ」


上司が俺に声をかける。

ほんの軽い一言。それだけで十分だった。


「ありがとうございます。頑張った甲斐があります」


口では謙虚に返す。

心の中では、当然だろうと笑っていた。


(ほらな。俺はできる男なんだ)


学校でも、仕事でも、恋愛でも。

俺はずっと勝ってきた。


選ばれる側じゃない。

選ぶ側。


それが俺の立ち位置だった。

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