第11話 ラナは熱砂を飛んでいく
青空の下、巨大な鳥が悠々と飛んでいる。太陽の日差しを浴びて、雲を切り、羽を大きく広げて気持ちよく飛んでいた。
砂だらけの大地に、緑と水が溢れるオアシスを眼下に見ると、鳥は旋回しながら降りていく。ゆっくりと降り立つと、泉に脚をつけて羽を震わせた。
「きっもちいい〜!! やっぱり砂漠のオアシスの水は気持ちいいなぁ!!」
バシャバシャとラナは脚を動かしながら水遊びをする。水飛沫が周囲に飛び、尾羽が光を浴びて虹色に輝いた。
「ふんふんふ〜ん……あっ! ナツメヤシ! オアシスってナツメヤシたくさん落ちてるなぁ!」
ラナは水から上がると、地面に落ちているナツメヤシを嘴で突きながら食べる。口に広がるじんわりした優しい甘い味と、しっとりした感触を味わいながら、テクテクとオアシスを闊歩した。
「あ……! こっちにも沢山落ちてる! ラナついてるなぁ! 」
ラナは地面に点々と落ちているナツメヤシを食べていく。
「ん? なんか、ナツメヤシって、こんなに点々と落ちてるものなのかな……? まぁ、いっか! そういうこともきっとあるよね! おいしい〜!」
サネヤに注意されたことが頭をよぎったが、ラナはナツメヤシの美味しさに我を忘れ、忠告を頭の隅に追いやってしまい。
るんるん気分で飛び跳ねながら進んでいくと、ナツメヤシが木の下で山盛りになっていた。
「わぁ……! こんなに沢山ある……! いただきまーす!!」
ラナが羽を広げてナツメヤシの山に飛びつくと、地面に着地した瞬間、地面から網が飛び出してくる。ラナの体が宙に浮かび上がり、網に絡まって包まれ、宙にぶら下がった。
「えっ!? えっ!? なに!?」
ラナが混乱しながら羽を動かそうとするも、網のせいで動かすこともできず、身動きを取ろうとすると、余計に体に網が絡みついていった。
「な、なんで……ラナはただ、ナツメヤシが食べたかっただけなのに……」
(このままカリマーラに行けずに、干からびちゃうのかな……あのナツメヤシ、まだ食べれてないのに……お水、飲みたくなってきたなぁ……ラナ、このまま死んじゃうのかな……)
後ろ向きな想像をしながら、ちゅんちゅん……と寂しそうに鳴いていると、ラナの後ろから砂を踏む音が聞こえた。
(だ、誰!?)
ラナが後ろを振り向こうとするも、網のせいで振り向けない。足音は迷うことなくラナの方へと進んでくる。ラナは必死に体を動かすも、無駄に終わった。
「ぴぃぃぃぃ〜!!」
ラナの後ろで人がゴソゴソと何か荷物を漁る音が聞こえる。ギコギコという音が聞こえると、網が徐々にちぎれていき、ラナの体は不自由な宙から地面へと落ちた。
「ピィ!!」
受け身を取ることができず、尻餅をつく。お尻がヒリヒリと痛み、目を瞑った。
「地面に不自然に落ちたナツメヤシ食べちゃダメだって言ったのに……相変わらず、ナツメヤシが好きだね。ラナ」
少し笑ったような声が聞こえる。よく聞き慣れた声の方へ振り向くと、そこには、困ったように眉を寄せながら、懐にナイフをしまっているサネヤが立っていた。
「……? サネヤ!!」
「こんにちは、ラナ。今日も綺麗な尾羽だね」
「サネヤだ! サネヤ!」
ラナは羽を広げながらサネヤの体に飛びついた。サネヤは両手を広げてラナを迎え入れると、ラナの体に手を回した。
「ラナ、体はもう大丈夫かい?」
「うん! ガウルが沢山舐めてくれた!」
サネヤの体に頭や頬をぐりぐり当て、羽をバタバタとする。砂が激しく舞い、ダンブルウィードが地面をコロコロと転がっていった。
「そうだ! サネヤ、妹見つけられた!?」
サネヤは目を伏せながら、身につけていたカバンから羅針盤を取り出す。中心の器の部分にサネヤが自分の血を入れたのだろう、赤黒いシミができていた。羅針盤は針の部分が折れ曲がっており、一向に針が動く気配はなかった。
「いいや。羅針盤の針が折れ曲がっていて、やっぱり上手く作動しなかったんだ。……でも、直すことができたらきっと探すことができるよ」
「そうなの!? じゃあ、ラナまたお手伝いしてあげるね! ラナも一緒に羅針盤の直す方法探してあげる!」
「本当?」
「うん! ラナはサネヤのこと大好きだもん! それに……もしその羅針盤が直ったら、ラナのママも探したいの。ラナ、ママに会いたい! 会って今まであったことをたくさん話したいの! だから、一緒に行ってもいい?」
「勿論だとも」
「やったぁ!」
ラナがサネヤの周りをぴょんぴょんと跳ねていると、不意に立ち止まり、サネヤを見上げた。
「そういえば、サネヤはどうしてここにいるの?」
「ん? ラナを探していたんだよ。前もオアシスで出会ったから、いろんなオアシスに行っていたんだ」
「ラナを? どうして?」
小首を傾げ、サネヤを見上げる。サネヤは目尻を下げながら、ラナの頭を優しく撫でた。
「今度は僕がラナに恩返しをしたいから」
「ラナに?」
「そう。僕をずっと助けてくれた、とても優しい鳥さんに」
サネヤの黒い瞳が、蕩けるように優しくラナを見つめる。ラナは全身の毛を震わせて、首をすくめた。
「え、えへへ……そうなの? でも、ラナね、ライラたちにお別れせずに帰っちゃったから、また会いに行きたくて……それに、ラナ、ライラたちにもお世話になったから……ライラたちにも恩返ししたいの……」
「そうなの? じゃあ、またカリマーラにいくんだ」
「うん」
「それなら、僕も協力するね」
「サネヤが?」
「うん。僕にもラナの恩返しを手伝わせて」
サネヤがラナの前に膝をつき、ラナの顔を両手で包む。温かい大きな手に包まれ、撫でられていると、ラナの胸の中でポカポカとしたものが沢山溢れてきた。
「……うん! サネヤと一緒! ラナ、サネヤと一緒ならなんでもできるよ!」
ラナの胸にポカポカと温かい感情が湧き上がるのを感じる。それはどんな宝石や貴金属よりも綺麗だった。
ラナは羽を大きく広げて、サネヤの体を包み込んだ。大きく広げた羽が影になり、サネヤの体が灼熱の太陽から守られている。
空は高く、熱波が吹き荒れている熱砂の大陸で、一人の男と一羽の鳥が抱擁している。
欲望に塗れた都市は遥か遠く、二人の行先には砂の大地が灼熱の太陽の日差しを浴びてただ静かに広がっていた。
熱砂を翔ける鳥 山田端午 @Takotoriyama
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