第4話 ドッペルゲンガー

「あれ...?」

気が付いたら、私は試験場に横たわっていた。頭が重い。思考がまとまらない。

何が起こったのだろう。ガラスの向こうには、何やら慌てた様子の研究員たち。それと、酷く疲れたような顔をした人が、研究所の所長と話していた。私とそっくりな顔。義体だ。


―――――義体?


動いてる。....なんで?


その瞬間に気が付いた。あれは私だ。義体は私の方だ。なぜあっちが動いているのに、

どうして、私もここで動ける?

混乱していると、こちらを見た研究員の表情が変わった。


「おい...なんでオブイェークトが動いてる?」

「まさか...提唱されていた意識の焼き付きか?」

「ありえない、あれは——」


職員たちが騒ぎ出す。専門用語だらけで何を言っているのかよくわからないが、想定外のことが起きていることは確かだ。


「落ち着きたまえ。」


低く、落ち着いた声が響いた。

研究所の所長だ。


「強制切断の影響で、動作が遅れて反映されただけだ。珍しいが、エラーの範囲内だろう。」


その言葉に、空気が一瞬で変わった。

研究員たちは戸惑いながらも、黙り込む。


「シラサキは疲弊している。今日はここまでだ。自室に戻して休ませなさい。」


所長の視線が、こちらを向いた。

その目は、人を見る時の目ではなかったように見えた。


担架に乗せられ、部屋を移動させられる途中、ガラスの向こうをもう一度見た。

私の顔をした“もう一人”と、目が合った気がした。


怖くて、すぐに視線を逸らした。


次に意識がはっきりしたとき、私は白い部屋にいた。

天井の照明が眩しい。周囲には大勢の研究員。


所長が、私の正面に立つ。


「君は――シラサキ・ミカエラ・ミハイロフナか?」


質問の意味が、すぐには理解できなかった。

当たり前のことを聞かれているはずなのに、胸の奥がざわつく。


「……はい。たぶん……」


所長は何も言わず、しばらく考え込んでから頷いた。


「今の君は混乱している。まずは心を落ち着けよう。」


研究員が近づき、腕に冷たい感触が走る。


「鎮静剤だ。すぐに楽になる。」


視界が、ゆっくりと滲んでいく。

何が起こったのか自分でも理解したくなかった私は、眠気に素直に従ってしまった。

眠気に逆らう気力すら、残っていなかった。


「オブイェークト118、意識消失しました。」


「...目を覚まさないように投薬を続けろ。シラサキには隠し通せ。」

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プロイェークト・モナーク @Viper_118

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