恋バナ
「恋バナしよ!」
花奈の友達——名前は確か、青山さんだった気がする——が、にっこり笑って私達を見回した。
「いいじゃん!」
「しよしよ!」
花奈と、私の隣に座る佐野さんも乗り気だ。
顔をこわばらせたのは私だけ。
家族愛とも、親愛とも違う、恋愛。
それが、分からない。
「でさでさ!みんなは好きな人とかいるの?」
「凛はこないだ好きな子と話せたって言ってたじゃん?どうなの?今日こそ白状してもらうからね」
そのまま佐野さんの話で盛り上がってくれ、と心の中で念じる。
なのに、現実は常に非常。
陰キャに厳しい世界なんだ。
「私は、くるみちゃんの恋バナ気になる!普段話すことないしさ、恋バナで仲良くなろーよ!」
そんなこと、できるわけない。
「わ、私は……」
私は。
これから先の、言葉が出てこない。
本当に恋をする友達を見ても、全部分厚いガラスの向こうの物語に見えた。
「私は、恋とか、よくわからないかな……」
きっと今鏡を見たら、壊れかけの人形みたいな、ギチギチ音がしそうな不恰好な笑みなんだろう。
だけど、本当にわからないんだ。
誰も彼もみんな恋をして。気がつけば、私だけひとり。
「すきぴとか、きにぴとかいないの?」
すきぴ。好きな人。
きにぴ。気になる人。
かれぴ。付き合ってる人。
全部、私には縁のない人。
「私、わかんないんだよね。恋をするって、いいことなのかな?」
「……なんて?」
青山さんが頬杖をついて私に問いかけた。
「恋があーだこーだってさ。そんなん人によるよ〜ウチらだって、恋バナしてるけど彼氏がいるわけでもないし」
「ねー」
花奈達は、なんてことないようにカフェの内装を写真に収める。
そんなもんなの?皆んな、知らずに恋バナしてるの?
一人戸惑う私は、やっぱり陰キャからの脱却はできないのかもしれない。
「まぁ、肩肘張らずにゆる〜く喋ればいいんだよ」
花奈がそう言ったタイミングで、良いのか悪いのか。
注文していたラテアートとカップケーキが届く。
四人分のカップケーキと、飲み物。
カフェ・ラテや、キャラメルラテ。カフェ・オレ。
私だけ、苺ミルク・ココア。
甘くて、子供っぽい。
早く、大人になりたいのに。
「でも……」
あったかいカップを両手で包めば、ほんのりと温もりが手のひらを包む。
ラテアートのくまが、ゆらりと揺れた。
「じゃあ逆に、くるみちゃんはどう思うの?恋について」
佐野さんが、柔らかく笑った。
「わかんないや。従姉妹のお姉ちゃんが初恋してた時は楽しそうだったけど、ちょっとしたら悲しそうに笑うようになったし」
恋をすると、人はキラキラ輝くらしい。
だけど、それが実らないと、悲しそうに寂しそうに笑うんだ。
だから、知らないままでいたい。
知りたいと思うけど、知らない方が幸せなんじゃないかと思ってしまう。
「正直、受験失敗して後がないっていうか。親の期待が怖くなってて。恋愛とか、青春してる場合じゃないかなって」
青春は、ザンコクで、眩しくて。
私にとって、贅沢だ。
「もう!青春に権利も何もないんだよ!恋したければすればいいし、興味があればやってみれりゃいい。踊らにゃ損!損!」
花奈達が、鼻息荒くそう言った。
「よし決めた!くるみ、青春してみようよ!恋をするには、青春を楽しまなきゃ!」
花奈は、自分の荷物を引っ張ってきて、ポーチをゴソゴソ漁る。
出てきたのは、私には縁のない、リップやらチークやら。
「垢抜けよ!勉強と一緒でコツコツ頑張ればいいんだから。分かんない、知らないじゃなくてさ。まずは一歩。踏み出すんだよ」
花奈が、眩しく見える。
——いいのかな。
私も、青春して、可愛くなって。
こ、恋だって、しちゃっても……
——いいのかな。
「いいんだよ!」
そんな風に笑って、花奈達リップをコツリと机に置いた。
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