第2話 波は語れない
「これ、確認お願いします!」
「おぉ、思った以上に早いね、もうこの仕事にはなれたかな?」
「はい、まだまだ先輩方には遠くおよびませんが、それでも皆さん良くしてくださっているのですごく楽しんで仕事が出来てます!」
「それなら良かった、うん、殆どミスもないね、じゃぁこれはもう出しとくから次のお願いできる?」
と結構厚めの資料を渡したにも関わらずものの数秒で確認し終わった様で次の業務への移行許可が出た
「はい!」
とは言ったものの、実際この会社の仕事は恐ろしい程楽なのだ。必要な情報は大体社内のデータベースに保管されていたり、他の部署の人達の出席状況、勤務内容など一目でわかり円滑な相互サポートが行える様に余念がない。
何よりこの会社には通常達成目標という物がない。労働力がやや供給過多であるというのもあるだろうが、この会社の顧客層は主に物好きの能力者達、なので多少の依頼はあれど気長に待てる顧客しか相手にしないらしいのだ。
その上給料は完全歩合制、一切の仕事が上手く行かなくても生活事態は問題なく出来るこの社会だからこそ成り立っているのだろう。実際私も3日ほどは殆ど上手く行かずこれだけに生活の全てを委ねていたら今頃は、などと考えたくも無い
そして管理職という立場もあるのだろうが目の前の上司も大量の書類を捌きつつも、あの疲労具合には説明がつかないほどに簡潔に終わらせ適切な休憩を取っている。
やはり管理職は私が見えないところでも業務に追われているのか、とも思いつつ次の書類に手を伸ばそうとした時
「ピーンポーンパーン、あれ、ポーンだったっけ?プーンだったっけ?それとも第三の選択肢であえてペーン?」
「ピーンポーンパーンポーンですよ、あなた平日の業務はこれぐらいしかないんだからちゃんとしてください」
「し、失礼な!ちゃんと自社製品の品質を確かめる為に自ら率先して実験台になってる上にちゃんと経済も回してるんだぞ!」
「よくもまぁ基本無料ゲームに課金する事をそのような立派な語彙で表現出来るものです。小説家の方が向いてるんじゃありませんか?そんな事より早く報告してください、ミュートになってはいないので」
「あー、そうだった、お恥ずかしくもないいつもの事だけどとりあえず謝罪しとこうかな?ごぺんなさい。緊急ニュースってわけでもないけどとりあえず耳をかしてね」
とスピーカーからはここ最近で聞きなれた社長と案内係の人、名前は確かシータさんだったか、の声が聞こえてきた。昼休憩の時間を通知する以外には殆ど使われていないこのシステムが次に伝えるであろう情報に少しばかりの不安を感じつつも、周りと同じように聞き入っていた
「えー結論から言うと、能力者に無能力者が殺されました」
空気が、明確に変質し、凍りつく
それまでの和気藹々とした雰囲気はどこへやら。どこを見渡しても
一同、皆が、いや、この場にいる1人を残して皆が不安からか仕切りに仲間たちに顔を合わせながら何かを伝え合っている。
私も普段なら皆と同じような態度を取っただろう。その事実は考えうる限り最悪の状態だった、仮に能力者が無能力者の保護に嫌気が差し、戦争状態になった場合、能力者が少数派であった時代ですらなすすべなく負けた無能力者に、今や全人口の1割を下回りろくな武装組織もない無能力者が勝てる道理など何一つとしてないからだ。では、なぜ私が比較的冷静なのかと言えば
目の前に座るゲンタ管理官が気だるそうに欠伸を浮かべながら椅子に乗りクルクルと回っていたからだ。その様子を見た私は落ち着きを取り戻し次に紡がれる言葉を冷や汗と共に待った。
「あー、これに関しては見てもらった方が早いか、では管理官各位、モニターに写しといて」
とその言葉が終わる前にゲンタ管理官は何かのスイッチをかちり、と押して注目を促していた。
そこに目をやれば、全員が息を飲んだのが伝わった。なぜならそこに写っていた人物は能力者のリーダー、彼が何かの間違えで宣戦布告を言い渡せば終わる、と全員が頭の中で理解していたからだ、そして紡がれた言葉は
「本当に、すまなかった」
と頭を下げるリーダーの姿だった。
混乱と安堵が冷めやらぬ内に繰り出された次の言葉は
「この映像を見てほしい、」
と映し出したのは、中肉中背の小太りの男が何やら路地裏で10代に見える女性と揉めている場面だった。おそらく監視カメラの映像だろう。
するとその男は刃物を取り出してその女性に襲いかかる。あわや刺さろうかといった時、横から伸びた手刀に男の頭が潰される、いや、よく見れば肉片が飛び散っている、まるで中から破裂したような。そのような同じ世界とも実感の沸かぬ映像を見て暫く呆けていたが、急激に現実と言う名の吐き気が襲ってきた為我に変える。
そうして女性を助けた大柄の男が監視カメラの方向を見て舌打ちすると、何やら携帯端末を取り出し、といったところで映像は終わる
その一連の流れを見届けた者達は思い思いの反応を示していた。しかしもっと多かったのは困惑だろう。なぜこんな事が起きたのか、何が原因で揉めていたのか、疑問はつきないが次の一言でその全てがかき消される
「どうやら、彼は今の君たちの様な生活に満足できていなかったようだ。」
一瞬の疑問が深まることなど捨ておけ、と言わんばかりに
「彼は、日用品だけでなく、能力者が生み出した道具、形式的に魔道具と言わせてもらおう、それを、無制限に使用できるのも無能力者の権利だと言っていた」
意味が、わからなかった。いや、話の意味は理解している、ただ何故この生活に不満があるのか理解できなかった。
「カメラの映像から音声を復元したところ、”お前達能力者はなんの制限もなく能力を使う事が出来る、なのに俺たちゃぁ擬似的に再現された能力の紛い物をわざわざ金払って使わなきゃいけねぇ、こんな理不尽があってたまるか”との事だった。しかし能力者の不必要な能力の行使は禁じている、その上刃物を持った相手への正当防衛だったとはいえ、過剰な攻撃により一人の命を奪ったのは事実だ、本当に申し訳ないと思う」
と言うと共に深々と頭を下げる
「しかし、これだけでは君たちの意見がわからない、だから、君たちの端末にアンケートを送らせて貰った。これにより全ての意見が汲み取れるなど到底思わないが、その一助にはなると思っている、どうか正直に答えて欲しい」
と言い終わると共に携帯端末に着信音が届く
そこには
[今回の件について 赤羽勝奇の対応は十分に誠実であると思う
yes or no]
と簡潔な一文が書かれてあった。
そう、この赤羽勝奇という人物こそが他でもない世界の混乱を沈め、今も能力者たちのリーダーとして活動し続けている人物である。
私は、正直今回の件に関しては一切の非が能力者側に感じられなかった。先に意味不明な理由で攻撃を仕掛けたのは無能力者だし、法律はよくわからないが、確かにかなり残酷と思える方法で命を奪ったとはいえ、おそらく正当防衛ではないのだろうか?そう思いyesのボタンを押した。
そうしてしばらくたった後、結果が集計されたらしく、全体の99.8%の人はyesに押していた。異例なほどに高い割合なのは理解しているが残りの0.2%の人たちが気になる、殺された彼の友人や知人、それに同じ様な考えの持ち主達だろうか?
などの思いながら画面をみやると
「ありがとう、こんなにたくさんの人々に認めてもらえて、僕は本当に嬉しいよ。それと、亡くなった人の家族については後日改めてまた謝罪をさせてほしい」
といい切るが早いかモニターが映像を映さなくなり、皆緊張から解放され一息つくかと思いきや
「ん、っく、ふ、ふへへ、へへ、あっははははははw」
と聞き慣れた人からの聞き慣れない笑い声が漏れ出してきた。
「な、何か面白いんですか!?」
「んえ?いやだって、そのw、さっき調べたけど死んだやつ独り身だよ?親はもう老衰して他の家族もいなければ別段目立った友人関係も無い、所謂孤独な無敵の人って奴?なのにw、あいつw、後日家族に謝罪ってw、そんぐらい調べとけよw、今頃顔真っ赤にしてやっちまったーとか思ってんだろうな、だからあれだけ出来ないことは言うもんじゃないって言ってやってたのにwww」
と悪戯がばれて怒られている親戚の子供に笑いながら反省を促す様な軽いノリでそう言っていた。
「そ、そうだったんですか、」
とやや負け惜しみ気味に二人の関係性について探ろうと思ったが止めておいた。恐らく私がまだ踏み入るべき場所ではないだろうから、彼の遠い何処か懐かしい場所を見るような目がそれを物語っている。
「さ、まぁあんな事もあって疲れてるだろうし、今日はもう上がっとけ上がっとけ」
とさっきまでの口調がまだ尾を引いているのかやや砕けた口調で私達に帰宅を促す。まぁ仕事を早めに切り上げても生活面でも事業面でも困らないから大人しく全員従う事にした。たまにはゆっくりとこの社会について考える時間が必要だろう。
と部下が全員いなくなったオフィスを抜け、俺は一人その人っ子一人が通るには広すぎて静かすぎる廊下を「ミュギュ、ムギュ」ともうすっかり弾力のなくなったゴムの靴底が床に食いつく音を聞きながら歩いて行った。
お目当ての社長室に着くとそこには先客が二名、開口一番
「俺はこの辺でぬくぬく画面見つめるだけでいいっすよね?」
とわかりきった確認を取ると
「うん、まぁそうだね、一応回線は三人だけに繋げとくから確認しといてね」
「ういーっす」と隠す気も無く全身で面倒だな、と語りながら地図に目を通す、やれやれ、態々紙の地図か、一々買い直すと結構シャレにならない金がかかるんだぞ、と思いつつも
「へぇえ」と思わず笑みが溢れる、相変わらずイカれてるな、この男は、と思いつつも手に持った端末をカシャカチャ弄り回しながら
「じゃあ、起きを付けて行ってらっしゃい、おふたがた」
と何一つらしくない言い方で二人を見送るのだった。
….
ババババババババ
と力強く、かつ高速で風を切る音が聞こえる。今俺は防弾チョッキに身を包みその黒く輝く冷たい鉄の塊を握りしめている。これが本物の銃か、普通に生きてたら絶対に触れられなかったろうな、などと今朝行われた使用方法の講習を思い出しながら呟く。これ一つで軽く3桁の人間は殺せるんだとよ、全く実感はないがしかし事実なのだろう。
このヘリには他にもざっと10人ぐらい乗ってる。全員が全員格好は立派だ。素人で事情の知らないやつが見たらさぞ立派な特殊部隊に見えるだろう。だが違う、こいつらは俺と同じ銃を持って能力者共を殺したいと思ってるろくでなしに過ぎない。あの殺された奴と似たような者で0.2%の反対票を入れた人間ってわけだ。
俺は昔から選ばれた人間だと思ってた。能力なるものが世界に生まれた時、ついに俺の時代がきたと思った。そっからは勉強も何もかもを放棄して能力が開花するのを待った。だが、ついぞ俺には何一つもたらされなかった。何がどうなってやがる?何が悪かった?俺にはこのクソつまらん勉強をして将来は社会の歯車になれってぇのかよ?
そんなことを吐き捨てながら能力者共のクソっぷりを世に広めてやろうとした。だが、あの赤羽とかいう野郎が偽善者ぶって無能共を保護したせいで俺の考えが見向きされることは無かった。
あのクソ野郎共が、偽善者ぶるあいつも、それにながされて自分で考えようともしないあいつらと同じにはなりたくねぇ
そう思ってた時だった。
「君、能力者が憎いんでしょ?だったらうちの部隊に入って能力者と戦わないかい?」
初めは何を言ってんだこいつ、という感情しか沸かなかったが、興味本位でついていったところ、あのブラックステンレスコーポレーション、の地下に案内された
「おいおい、天下のブラステ様も裏の顔はあるみてぇだなぁ?」
と皮肉を飛ばしながらも案内された先で
銃があった、それを撃ってる奴らはどいつもこいつも狂った笑顔で撃ちまくっていた。
「どうする?君も参加する?決行日は明日だけど、急ピッチでごめんね、まぁ私にも色々用事があるんだから許してよ」
今度こそ、俺の時代が来た、そうだ、俺に唯一足りなかったのは力だったんだ。あの銃の威力も見れば分かる、あれは人を簡単に殺せる、あの防護服の性能も凄まじいもんだ、多少動きずらいが外から数発当たった程度じゃびくともしねぇ。あの能力者共は卑怯な手を使ってきやがるからこれがないと話にならねぇ。これで能力者共をぶっ殺しまくって出世しまくってやる
そして今に至るわけだ。そして目的地につく直前に標的を知らされる。あの動画で男の頭をぶっ壊してたやつだ。随分とおあつらえ向きじゃねぇか。
具体的な作戦は何も言われなかった。多分俺らの連携なんぞに期待はしてないんだろう。それでいいじゃねぇか、何にも縛られてなくて最高だ
….
「んじゃぁ派手に行くとするか」
とターゲットの家のドアを滅多撃ちにしながら蹴破る
てっきり家中を探す羽目になるかと思ったが、すぐ目の前にターゲットはいた。大柄でやや焼けた肌に黒髪黒目、間違いねぇ
「はぁ、静かにしてくれ、近所めいわ」
「死ねぇぇボケがぁぁ!」
と叫びながら俺たちは銃を乱射した。そのあまり正確とは言えないお粗末な弾道も、大人数で行えば不可避の面攻撃となる。その銃弾の絨毯は確実にターゲットの肉を貫通し骨を超え致命的な傷をつける
はずだった
「は、はぁ?」
ターゲットの体の周りを一瞬の閃光が走ったと思えば轟音が鳴り響き、弾は例外なく弾かれる。
「く、クソっ」
と再度打とうとした時に気付く、狙いが、定まらない?相手が、急に飛んだ?なんだ?何が起きたのか、銃を持ち直そうとすればする程に自分の体が下へ下へ吸い込まれていく。しかしその理性では全く答えられない疑問にも痛みと言う本能が全ての回答を提示する。
「あ、ア’’ァ’’ぁ’’ぁ’’!?」
正気を失わせる激痛に導かれその発生源を見やる。足が、付け根から丸ごと、これは、あれに似ていた。そうだ、昔なんかの動画で見た地雷を踏んで足が吹き飛んだ奴の状況とそっくりそのまま一緒だった。
あの時は俺ならそんなヘマはしねぇぜと鼻で笑って無様にも仲間に助けを求めて泣き叫び全員の足を引っ張る兵士を馬鹿にしていたが、今ならその気持ちが文字通り痛いほどに分かる。
だが一応の仲間は俺がそんな惨状になったのを確認するやいなや大急ぎで逃げていった。
あぁ、クソ、何一つキレる気力もねぇ。このまま大量出血で死ぬのかと絶望に打ち震えていると
「あぁ?なんだその顔は、はぁ、此間襲って来たやつを殺しただけで謹慎処分されたから態々足だけ飛ばして焼いて止血してやったってのによぉ。俺が悪者みたいじゃねぇか?」
言われ確認すると確かに血は飛び散っていたがきちんと止血はされていた。
「おう、ようやく話を聞く気になったか?言え、誰の差金だ?言えばまぁ殺しはしねぇよ、治安維持部隊にでも放り込んでやる」
どうせ忠誠心も何もない会社だ、その上こいつの能力の情報を共有しなかった事に俺は腸が煮えくり返っていた。ああそうだ、出来るだけ情報を出してやろう。そう思い口を開こうとすると
….
「う、うぷえ」
と間抜けな声と共に俺を襲ってきたやつが内側から風船の様に膨らんで爆死した
「...は?」何が起こったのか理解できなかったが、だがそんなことは後だ、今は一人でも捕まえて情報を吐き出させねぇと。今ならまだ外に逃げたやつに追いつけるかもしれねぇと淡い希望的観測で外に出る
とそこには、俺を規則正しく半円状に取り囲んだ襲撃犯の奴らがいた。
….
「あ、うわぁあ!」と情けない声をあげながら仲間の一人の足が爆破された事を見届けた俺たちは一目散に逃げ出した、が
足が動かなかった。丁度家の外に出たあたりで何一つ動かなかったのだ。
心理的なものでも体に不調があるわけでもない
「う、動け、動けよクソッ!」
と足を殴るがなんの反応もない、防護服を脱ぎ捨てようとするが
「は、外れねぇ」
何回か練習したパージのボタンの一切が反応しなかった。だがそれは周りも全員同じだったようだ。死の恐怖に半狂乱になっている俺たちに先ほどまで全く反応のなかったインカムが音を流し始める
「あー、あー、マイクテストマイクテスト、聞こえてるっすかこれ?聞こえてんなら返事して欲しいんすけど」
そんな俺たちの状況などしってか知らずがお手本のように神経を逆撫でするやつにいつもなら切れていただろうが状況が状況だ
「あ、あぁあ聞こえてる!聞こえてるからこれをどうにかしてくれ!」
俺は藁にも縋る思いで言葉をひねり出したが、相手から帰ってきたのは
「そんな事より、あっ、ほら、あいつ爆殺されましたよ?あいつの能力で、迎撃出来なかったら死ぬっすよ?」
「ああ’’?動けねぇっつってんだろ!?さっさとどうにかしろよゴミが!」
「おー怖い怖い、んじゃ遠隔操作モードに切り替えますんでまぁ頑張ってくださいね」
といい終わりインカムが切れるや否や体、いやその身に纏った防護スーツが出口を取り囲む様に規則正しく俺たちを整列させる。俺は恐怖にかなりの量を漏らしながらも
「クッソ、くるならこいやボケェェ!」
と失うものなど何もないと喉をはち切らんばかりに絶叫する
…..
その光景を目にして真っ先に浮かんできた言葉は
違和感
さっきまで何一つとして統率も取れていなかった奴らがこうも咄嗟に陣形を組めるものだろうか?
その疑問が解決する前にそいつらは一斉に掃射してきやがる。まぁ、疑問は後だ、後別に俺が証拠を取らなくてもいいだろう、とりあえずこいつら一帯丸ごと爆殺するか
…..
瞬間、またあいつの体に閃光が走ったかと思えば先ほどまで一緒に撃っていた奴らは全員がドロドロと溶け落ち、防護服は炭になっていた。一番後にいた俺はなんとか生き残ったが後数秒の命だろう。
しかし、人生の最後に疑問が残る、俺たちの人生の意味はなんだったのか、なんてそんな高尚な疑問じゃない。もっと簡単な事だ、どうしてあいつは俺達をここに向かわせたのか、それだけが疑問だ。こんなの、こんなのまるで、俺たちを、社会の厄介者である俺たちを
「ただ都合よく殺そうとしてるだけじゃないのか?」
そう火傷を負い、動かすだけで激痛が伴う口でインカムに問いかけるが、インカムが壊れてるのかそもそも返す気がないのかすらわからない、ただ、言える事は
「母さん、俺」 なんの努力もせず、ただ僻むだけ僻み、施してくれた相手を侮蔑し、自分勝手に人を殺そうとした。そんな俺がたどる末路としては、どうにも妥当なものではないのか?そう思えた時、初めて、初めて人間としてほんの少し、ほんの少しだけマシになれた気がした。
「,,,ごめん」
….
「はぁ、くっそ、なんだったんだ?」
襲撃者を全員撃退し、一旦の落ち着きを取り戻した為思考を整理する
誰の差金だ?この間殺したやつの仲間で敵討?いや、そんな気迫はなかった。無能力者共の武装組織?いや、明らかに練度が低すぎる。考えうるのはそういう、軍隊みたいなのを生み出せる能力者か?いや、そんなやつに関わった事もないし面識もない。何よりそれにしては不自然な点が多すぎる。
と考えの整理もつかぬ内に
無音で、それは飛んできた
先端が異常に鋭い、6センチ程度はあろうかという銃弾が俺に向かって飛んできていた
間一髪で自身の周りに指向性を持った爆発による爆発反応装甲の様なものを展開する。さっき襲撃者共に使っていたのも同じ原理だ。
しかし、
「!!!チッ」
予想以上にその弾丸は空気抵抗を受けず、跳ね返すのに苦労した。
撃たれた場所を見やり爆破させようとする
が
「っく、っそが!」
その直前に先ほどと同じ弾丸が放たれたので攻撃を中止し、防御に専念する。
トン、と軽いものが机に置かれた様な音を立てながらその犯人が姿を表す
見やるとそれは、女?そして先ほどの男達と違い見るからに軽装備だ。目立つのは手に持っている2丁のマガジンが銃口のすぐ下についているタイプの重厚な拳銃のみ。
着地するや否やもう一度、今度は連続で放ってきた。
着弾地点が予測しやすかったため必要最小限の範囲に絞り跳ね返す。
向き直るとその女は襲撃者の防護服の上に降り立っていた。そして少し手を上向きに構える。まるで襲撃者の発射位置を再現する様に。
そして、
「ズガァァァン!」という轟音と共に二発の銃弾が発射される
先ほどより重い、が弾けない程ではない、弾切れにさせて俺の勝ちだ
「何もんなんだお前はヨォ!」
「....」
と煽り気味に声を上げるも相手は何も語らない、そのまま背を向け遠ざかろうとする背中に焼きを入れてやろうかと手を伸ばすと
あれ?なんで、目の前が真っ赤にぼやけて、あれ?俺何してたんだっけ?まぁいいか、なんかあったかいし、あー目がチカチカしてるのか?これ、いや違うな、瞼が痙攣してるだけか、あれ、それじゃ。これ、なんかの現象ににてるな、なんだっけ?これ、まぁ、いい、か
「対象、絶命を確認」
「了解、んじゃ、徒歩でヘリと徒歩どっちがいい?って聞く前に走り始めてるし」
と誰もいない部屋で一人静かに画面を見つめ、コーヒーを啜りながらそんな言葉をこぼす
[対象:豪山バクト]
[能力:検証前 生物、無機物問わず自身が指定した範囲に爆発を発生させる事が可能 また本人が至近距離で爆発を起こしても、目立った外傷は無い。
この事象以外のデータからもバクト自身が起こした爆発に対する極めて高い指向性制御能力を持つことが示唆される。
また、爆発の発生場所に関して一定の範囲内であれば如何なる物理的制約も無いことが想定される、これにより如何なる防護服を用いようと、内側から爆発されてしまう為、”なんの意味も持たない”
総評:危険度A 赤羽であろうと不意打ちで重要な臓器を内側から破壊され、致命傷を負う可能性が高い、本人も無能力者保護にやや否定的な傾向を持つ]
…..
[検証後 以前のデータに大きな間違いはない
爆発発生可能範囲は自身を中心とした半径20m程度
爆破影響範囲と破壊威力に明確な負の相関関係あり、発生エネルギーに限界があり、それを範囲と威力に割り振っている為と思われる
常人を確実に死亡させるにたる威力を担保できる範囲は半径7mほど
つまり有効攻撃射程は27mと思われる
・戦略的、戦術的な範囲では相反するが
明確に敵の排除より自身の安全の担保を優先する戦闘的特性がある事が判明した。
総評:危険度B- 能動的に防御に能力を使わせその隙に攻撃する事が効果的、その際空気抵抗を極力減らす形状の弾頭が望ましいと考えられる]
「はぁ、まぁ、報告はこんなもんで良いでしょ」
んにーと背を伸ばすストレッチをして体をほぐす
「これで残業代出ないのマジでブラックだよなぁ、ブラックステンレスのブラックってそうゆうこと?」
と心の底からの本音をはきだす。
あー、明日が休みで助かった。久しぶりに飯でも行こう。
何気ない日常に戻る、ではない、これこそが、彼にとっての何気ない日常なのだ。
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