法務省・独立広域即応部隊 J.U.D.G.E.(ジャッジ)

きつねのなにか

法務省・独立広域即応部隊 J.U.D.G.E.

――極めて発達した世界では、SFと魔導の見分けがつかない――

――ラッキー・ロッキー・アンラッキー


カランコロン――


「お、お客さんかい……エイダか。どうした、お前一人か」

「やだなあストーマ店長、今回の報酬の一つがここのお肉だってこと、知らないわけではないんでしょ?」

「そりゃ通知が来てるさ。部隊一の腹ぺこ虫が食べに来るってのはな」


『法務省・独立広域即応部隊 J.U.D.G.E.』所属・実働部隊・部隊長・エイダ。身体は総義体人間。それが私。

ダイニングバー『イレオストミー』ででっかい肉の塊、神戸和牛10キログラム。それを食べに来たのだ。


「美味しかったーまたよろしくねハゲゴリラ」

「報酬のとき以外は来るんじゃねえ」


ルンルン気分で外に出ると、横にいたバスケットボールに手足が付いたような存在である「カート」が通信を仕掛けてきた。私の補助をする、多目的ドローンである。宙に浮かぶバスケットボール。電脳戦では最強。


『なに、中では大人しかったくせに』

『ゴリラさんは有名な義体コーディネーターですからね、大人しくしておくのが正解でぇす』

『電気でも食べてれば良かったのに』

『それはそうなんですがー。ちょっと悪いかなぁと思いましてぇ。それで内容なんですが、宇都宮重LRTライト・レール・トランジットが東簗瀬で強盗団により乗っ取りを受けたとのことです。現在籠城中です』

『それはよろしくないなあ。んで、私に出動要請来てるわけね。車回しておいて』

『了解』


時間になるまで屋台のラーメンを食す。


「食べ過ぎですよぉ」

「私の超魔導真空エネルギーコアは出力を出すだけでは無く、無駄な出力を抜いてゼロカロリーにする力があるのだよ」


パァン! すればゼロカロリー。

パパン! すればマイナスカロリー。

スッパァン! すれば無限の出力。

うーん最強。


たまたまパトカーが目の前を通過し、「ここはおめーらの管轄じゃねえぞ!」とヤジを飛ばす。

ただ、J.U.D.G.E.の服装を目の前にしてそれ以上のことは出来ないようだ。まあ、そりゃあねえ……。


J.U.D.G.E.とは、法務省が持つ、最高実力行使部隊である。使用道具に制限はない。もちろん武器にもだ。


「こっそりべたべたガムを車の後ろにつけておきました」

「100点! 私の行動じゃ無いもんね」


えへへ、100てん、ひゃくてん……と悦に浸っているカートをよそに、V.I.S.E.あしが飛んでくる。


「私専用の飛空艇ちゃんラブラブチュッチュ」

「交通の邪魔になるから早く乗りましょう」

「先に乗ればー?」

「いじめですか。私はあそこまで高度をとれましぇーん」


ひょいっと五メートルくらい飛び上がって着地。


中は豪華なラウンジとなっており、お酒もジュースもおつまみもある。


「V.I.S.E.、簡易メンテをお願い」


ソファー兼検診台の上に横になって簡単な調整を施す。


「お嬢様お嬢様。わたくしもメンテを行いたいのですが」

「金がかかる」

「間違って宇都宮のシステム全てダウンさせても知りませんよっ!?!?」


それは困るし、今の稼働状況じゃ確かにやっちまいそうな気もする。


「しゃあない、簡易メンテを許そう。そのおやつを食べなければな」

「ぎくぅ。たたたたべてません、たべてませんとも。やったー簡易メンテだーわーいわーい」


ソファー兼検診台の横に、すぽっとはまるバスケットボール入れみたいな場所がある。そこにズボッと入った。


「はー極楽極楽。いい湯だなっと」

「カートにとってはお湯なんだね、おかしい、げらげら」

「お湯で身体を流せばメンテもバッチリなんですぅ」

「本当にバスケットボールみたい。空気は入ってますか?」


軽口を叩きながら現場近くまで到着。


私の光学目視で見る限り、高架線にLRTが縛られていて、その中にあった物資を強奪しているように見える。


「V.I.S.E.のセンサーはどうなってる?」

「はい、あちらの範囲外です、アクティブは使っておりません、パッシブのみです」


「光学で狙撃は?」

「暗すぎます」

「暗視でも?」

「光学の方が追いつきません」

「あとで改良申請出しとくか。V.I.S.E.を上空範囲外から飛ばして、降下作戦と参りましょう」

「わたくしのパラシュートは?」

「そんな物はない。私と同じく、宇宙一の硬度と靱性を持つ超硬魔導金属で出来ているんだから、壊れるこたぁないでしょ」


いやだー中のセンサーがーなどと喚いているうちに降下ポイントまで到達。


「行くぞバスケットボール」

「ひーん」


勢いがあるので角度をつけて降下。


「一人目、アクティブハック発動」


敵の一人が燃える。シナプスを焼いたのだ。

二人目は目を奪った。


ここで限界まで降りたので、パラシュートを……開かない。

そのままLRTの真横に突入……っぽい着地をする。


「J.U.D.G.E.だ。いみはわかるな」


ズボーっとはまったカートが多少姿を変えてすぽっと抜け出し、

『J.U.D.G.E.認証』の蒼いサインを天上に光らせる。


「じゃ、ジャッジだ、逃げろぉ!」

「逃げても意味ねえ、殺るしかない」


銃弾が私に降り注ぐ。

しかし私の防御被膜を破れる物は存在しない。


「おい、LRTには傷をつけるなよ、被害はこっちもちなんだ」

「ほー、なら死なば諸共!」

一人が巨大な斧でLRTを傷つけようとする。

LRT自体重武装なので傷がつくとは思えないが、危険な行為だ、対処しよう。

ヒュンッ

という音はしないのだが、見えない糸が巨大な斧に絡みつきバラバラにしてしまった。

私の骨格に装着されている、ナノワイヤーだ。太さや形状は変えられるが、このようにバラバラにする細さと硬度にすることも出来る


「あと二人、どうする」


私が攻撃に対処していた時間で、カートがアクティブハックを使用、ほとんどの人員を行動不明にしていた。


「こ、降参だ、助けてくれぇ」


「こちらエイダ。行動を完了した。後始末を頼む」


後始末の喧噪のなか、家族とも言える人たち、J.U.D.G.E.の後方部隊がやって来た。


「ああぁーん、突入怖かったですぅー」

「嘘ついても困りますよ、思い切りレールにぶち当たってるじゃありませんか! カートくんはずっぽり穴を開けているし。復旧費用どれだけかかると思ってるんですか! 現場の破損はウチ持ちなんだって何度も言ってますよね!! ああ、胃薬胃薬……」


「なっかむらさーん、LRTに損傷がないのが一番の収穫でしょ? これ壊したら億よ、億」


中村主計官は「でもでもだってレールだってかなりしますよぉ」と涙目だ。

うーん、かっこよく登場しすぎたのは否めない。


「まあ、今度からパラシュート使いますから」

「それを整備するのにもお金かかるんですよぅ。堂々と範囲外からアクティブハックで一気にやっちゃってくださいよぉ!」


堂々と範囲外って堂々なのかなー。

その後、メンテの渡辺整備長という名の『パパ』がやって来て、簡易測定をしてくれた。


「さすがに内部骨格及びV.E.C.に関しては一切の異常は無いが、外装に傷をつけすぎだな」


「派手な行動は慎みますか」


パパは私の体を一番気にかけているのだ。だからパパ。以上。


警察とのもめ事を加藤事務次長が一喝したのち、V.I.S.E.に皆を乗せて悠々と帰還するのであった。

「皆さーん、エイダが帰ってきましたよー」


ルンルンスキップで帰還。


「まずはトメさんの半チャーラーメンでしょ」


確信を持った声でそうつぶやく。


「先に報告書よ」


加藤事務次長の冷酷な発言が身体に刺さる。


「そげなー。いくら究極のコア『真空エネルギーコア』のV.E.C.持ちでも、人工筋肉などには栄養が必要なんですよぉ。半チャー欲しいなぁ」


ここでトメさんからの無線通信。トメさんは高齢なので電脳を取り付けていないのだ。だから無線。普通は『電脳無線』


「もう出来上がってるんだい! 温かいウチに食べないと今後は飯抜きだよ!」

「よっしゃー! 追加で半チャーラーメン3人前よろしくお願いします!!」

「しょうがないわね、先に食べよう。 ただしアルコールは駄目だ」


トメさんの料理は美味い。特にラーメンが美味い。町中華っぽい感じなんだけど、どれも美味しい。町中華最高。

「はい、エイダ様、おしぼりです! 冷え冷えのドリンクもありますよ」

「あらまぁ、新人オペレーターの清水ちゃん、どうもありがとうねえ。今日は電脳封鎖だったから映像無くて残念だったね」

「いえいえ、V.I.S.E.の画像から見ていましたよ! 私も少しだけアクティブハック手伝ったんです!」

「ハックは危険。しっかり訓練しないとカウンター防壁に脳味噌食われるよ。もっと訓練してからね」


「そうですね、出しゃばりすぎました」


シュンとなる彼女に、突然アクセサリーが配られる。


「おうおう、自称情報屋の遠藤さん。清水ちゃんを口説くつもりかい」

「目の前で女がシュンとしていたらなにかするのが男ってもんよ。こういうときのアクセサリー、最高だろ」

「ありがとうございます遠藤さん、私はエイダ様一筋なのでなんとも思っていませんけれども」


ズコッとずっこける遠藤さん。


「それよりこれってどこから持ってきたんです?」

「LRTの残骸だ。傷ひとつ無く綺麗に残っていたぜ」


ふーん、そっか。

ずるずる、むふー、幸せ指数が跳ね上がる。っかーこれよこれ。


「義体の栄養消費効率ってどれくらいなんですかねぇ。かなり食べてますよねえエイダさん」


「おしっことうんちはしないよ?」


その言葉で盛大にラーメンを吹き出したオペレーター清水ちゃんであった。


「あれ、バスケットボールは?」

「そこでトロピカル(当社比)な電気をもらってとろけておりますよ。」

「行動においては一切の外部電気を使わないのに電気欲しがるんだよね。不思議な子だ」


私が撫でると麻薬にはまっているような顔をして眠りこけるのであった。かわいいやつめ。


――そんな家族団らんをしているときであった。


ピーンピーンピーッ

ピーンピーンピーッ


「警報!? 加藤さん!?」


「ネットワークを掌握されている。カートをたたき起こせ! 清水と一緒に防衛よ。エイダは出られる?」

「帰る最中に簡易メンテ受けてるから大丈夫。戦闘用服はないけどそもそもが堅いからなんとかなると思う」


「よし、いけっ!」


トメさんの食堂から一気に散り散りになる面々。


私は異次元ワープであるGATEから進入してくる奴らの撃退だ。

メインはカートがいじるネットワークの修復。

これが直ればアルティメットハックで一瞬にして全滅可能。


GATEからは大量の戦争用重機械兵が押し寄せてきている。


「とりあえず数を減らすか。腕部マシンガン」


腕から高速発射される大きなうねりが大量の兵を粉みじんにする。


ただ、


普通の靴なので反動が吸収しきれない。数の多さもあってじわじわとGATEの後方に後退する。


「くっそ、魔導が一時的に切れた。凄い量撃ったからな。ただ私はこれがある」


ナノワイヤーでもって一体ずつ切断していく……んだけど、デカいこいつら相手に切断するのは時間がかかる。


「しょうがない、接近戦は嫌だけど……」


Vブレードを召喚する。接近専用に開発されたエネルギー放射物質だ。おまけにでかいエネルギーシールドも付いている。

ナノワイヤーの太さと粘着力を作り替え、ワイヤーアクションのようにぐるぐる飛びながら急所を狙っていく。非接触型マルチプルバイザーのおかげで今のところ死角はない。複眼は気持ち悪いけどね。


そらもう、相手は重機関銃やらなにやら撃ってくるんだけど、今のところ効いていない。服装の下には超強化された人工筋肉が待っている。12.7なんざ筋肉でガードする。


すると残った機体がなにかを撒き始めた。なんだ、バイザーで解析する。……うっそでしょ。シリコンオイル!? 不味い、滑る。

ここからは防衛戦が始まった。残骸を壁にしつつVブレードで急所を狙う。


「あと3体……」


なんとかなるかな、


その時であった。


3体がオーバークロック? かな? をし始めたのだ。


すぐさま場所を変えたけど見違えるほど早い。


私の動きを先読みしてくる。


三体の重武装戦争用重機兵に囲まれた私。


逃げ場はない。


が、やりようはある。


まだバイザーは動いている。


まだまだ。まだまだ。



ただ、相手の能力を見誤っていた。


私が一瞬反応が遅れる速度で腕を火薬射出させたのだ。


「こんなもの、ナノワイヤーで」


……切れない? ナノワイヤーが切れない。


そんな物質、私と同じ超硬魔導金属くらい――

ほんのコンマ思考が外れた瞬間。

腕と接触した瞬間に電脳防御を破られ、脳をハックされほとんど動けなくなった。


私は、首筋に猛毒のウィルスを身体が壊れそうになるほどの衝撃でたたき込まれ、気が遠くなっていった。みんな……ごめん……


私はむき出しの人工筋肉、骨格のままどこかへ連れ去られた。

首筋に入ったウィルスのせいでまともに動けない。

電脳設備も回復しない。

ウィルスかと思ったけど、首筋の物体は義体強制停止の楔かもしれない。


くそ、ナノワイヤーを出そうにも、Vブレードを出そうにも、身体が上手く反応しない。四方八方に動いてしまう。


そのまま私はどこかの工場へと運ばれた。五感だけはノイズ混じりながら動いているのだ。

身体から走るノイズが、骨格内部を走る神経を触ってかなりキツい。


「よし、ここの溶鉱炉に入れれば俺たちは・・・だ」

「でも良いのか。あの・・・だぞ。これから治安はどう・・・んだ」

「しらねーよ、ヤクザやギャングが攻勢を強めるってだけだ。俺たちの・・・には関係ねえ」


なんとか聞き取れた。

ただ、考えている暇も無く、溶鉱炉に投げ入れられた。



熱い……熱い……暑い。

私の素体は超硬魔導金属。溶鉱炉の熱くらいじゃ熔けない。

熔けなければ耐えられる。


四肢や頭部の人工筋肉、それに電脳設備などが炭になっていくのがわかる。


私は目を押さえて身体を縮め、熱から少しでも防御しようと試みる。

あと少しで、義体強制停止の楔を溶かしきることができる。

そうすれば痛神経カットだって出来る。


溶かしきった瞬間は、激烈な痛みと熱に襲われた。

なんせ素体に串刺しになっていたのだ。そこに溶鉱炉の鉄が流れ込んだのである。尋常じゃない熱さだった。


さすがに真空エネルギーコア『V.E.C.』を使い温度を吸収する。

溶鉱炉の熱を取らないのは、鉄は溶けたら固まるし、私の表層だけ冷やし続けてもスラグがたまるだけだ。続けると身動きが取れなくなる。


十分な時間が経ったろうか。

私は素体から射出していたナノワイヤーを使い、溶鉱炉の外へとこっそり這いでる。誰も居ないようだ。

ノイズまみれだが、眼を守っていて良かった。


V.E.C.の熱量を使い素体に付いた金属汚れを燃え落とす。

もう楔はない、自分の身体は自分でコントロールできる。

さあ、歩いて帰ろう。


ギィィ、ゴィィ。


ああ、そっか。溶鉱炉で潤滑油もなくなっているんだっけ。

どうしよ、探すか、逃げるか。

ジャンプすれば遠くへは行ける。数トンの重さがこの小さな足にかかるんだけど。地面埋まらないかな。


うーんと思っていると、高速で移動する丸い物体と遭遇した。


「ごしゅじんさまぁぁぁぁぁぁ!おじょうさまぁぁぁぁぁぁぁ!」


めっちゃうるさい。


「このカート、お嬢様の位置は常に把握済みです。無力なために溶鉱炉に入れられているところは見ているだけでしたが、お会いできて何よりです」


喉がやられているので、ギギギギ、と頭を動かしてマイクが無いことを示す。


「あ、そうですね。では、よいしょっと」


私の頭に乗り、身体を変形させて居心地良く座るカート。


『これで接触通信が出来ます。ゴーゴーエイダゴー』

『楽しそうで何より。仲間の動向は?』

『遠藤さんが長期潜伏スパイだったみたいです。あのアクセサリーが内部からネットワークをジャミングする機械だったようでして。ちなみに処刑されています』

『……そのほかは』

『逃亡には成功しています。大腸で会おうとのことです』

『大腸ね、わかった。市街の状況は?』

『ネットワークから切断しているのでなんともかんとも』


ふーん、そっか。


ふと見ると、私のおなかにくっついているV.E.C.ちゃんが赤い赤外線を一方方向に向けているではないか。


『V.E.C.がなにかに反応しているね。ここ真っ暗で人もいないみたいだし、行ってみよっか』

『あいあい、周辺サーチ開始しまーす!』


ギコギコいいながら溶鉱炉とは逆の、ガラクタ置き場へと進む。

ガラクタばかりだけど……。


『ああ、超効率エンジンだ。古いけど。これをどうするの?』


ふるふると振るえるV.E.C.。ピョンと勝手に飛び出ていく。


ものの数分で全てを食べ尽くしたV.E.C.はニコニコ顔ネオンサインみたいな光で戻ってきて、おなかに納まった。


『美味しかった?』


すると、答えかどうか知らないけど、素体に潤滑油と黒い塗料が塗られたのだ。


『なにこれ、こんな機能持ってたっけ?』


おなかの中で上下に動くV.E.C.。あったらしい。


『まあいいや、これで闇夜を忍びながら行動できるよ』

『行き先はどこなんですかー? J.U.D.G.E.本部は警察によって封鎖されてますよ』

『イレオストミー。ストーマさんのお店だよ』



潤滑油によって動きがヌルヌルし音を立てなくなった私。小走りで市街地を駆け巡る。


「測位衛星システムにも接続していないから完全に地図を使っているのですけど、ここがどこだかわかりませんねえ」


『カート計算。今の位置でJ.U.D.G.E.本部がこの角度で見えて北の星が午後九時でこういう風に見えた場合の現在位置は』

「こっこでーす」


『となると大腸は、この位置か。一気に走っちゃおう。こう行けば抜け道っぽい道を使ってたどり着ける。カート、口閉じてなよ』


『はーわぁぁぁぁぁ! なんてそくどぉぉぉ!』


闇夜を走る黒い骸骨という都市伝説が生まれたとか。そっかー。


『ついた。カート、中にはいって説明してきて』

『了解です! ふんすふんす』


ぴょんと頭から飛び降りて、ドアに手が届かなくて、涙目でこちらを見るカート。かっわいいなあ。

ドアだけ開けて、外でカートの説明を待とうと思ったら加藤事務次長がいの一番にドアの外に流れ込んできた。


「無事だったかエイダ!! 良かった、本当に良かった……」


中村主計官が話を続ける。


「こんな身体になってしまって。復旧には莫大な予算を計上しますからご安心なく。国一つ潰すくらいの金は国から出してやりますから!」


オペレーター清水さんがキラキラの目で話しかける。


「私の機転でカートをダストシュートに入れたんです! 外に出たカートはビルディングパーフェクトシステムダウンを仕掛けて、そのまま私達は脱出ポッドに乗ったんです!」


皆良くやった。

握手をしてまわる。

あれ、トメさんは?


「トメさんは現場に残った。この歳じゃ追いつけないといってな。ただ、殺すような真似はしないはずだ、相手の目的にもよるが」


「おうおう、俺の店の前で話されても困るな。まずはなかに入りな」


「ストーマさん、よろしくお願いします」


「ウチでずっと潜伏できるなら高品質なのも装着できるが、そうも言ってられねえだろ。まずは人を作る」


まずは最小限の人にして貰った。

あとは重火器を。

自分でもびっくりしたけど、骨格の出力がかなりあるんだよね、この素体。


「お嬢様、改造中に申し訳ありません。推定ボスのエネルギーの種類が判明しました」

「パンツはいてからでいい?」

「はきながらお聞きください。対消滅機関のエネルギーを観測しました」

「軍が研究してるエネルギー炉じゃん。なんで宇都宮に?」

「恐らくお嬢様との対決を望んだ物かと」

「場所は」

「J.U.D.G.E.本部の屋上です。誘ってますね」


人になった私は顔をパンパンっとして一息つく。肺があるって幸せ。


「カート、行くぞ」

「はい、お嬢様」

「あ、あの!」

「どうした清水ちゃん」

「ギリギリまでバレないように私が運転します!」

「ギリギリじゃなくてギリまではお願いする。頼むよ」



V.I.S.E.が上空を疾走する。


「急降下かけます! 屋上に物理障壁を確認!」

「突っ込む。全砲弾をぶちまけてから清水ちゃんは帰って」

「了解、ご武運を!」


ばーかみたいな量の砲弾がV.I.S.E.から放たれる。それによって物理障壁は展開を維持することが出来なくなり、発生装置ごと爆散した。

屋上へと着地していきなり足の筋が切れた。間に合わせだもんなあ。


カートはパラシュート降下できたようだ。


「さてと、どこかのホストクラブにいそうな君、さっさと倒して平穏を得させてもらうよ」


「倒す、ねえ。重機3台も対処できなかったくせに?」


髪をかき上げる金髪野郎。


「今回はいないよねえ」


「その分ハックに回せるんだよ、既にシステムダウンを流していることもわからんだろうな。ばいばーい」


髪をかき上げる金髪野郎。

うぜぇな。


「……で、なにがどうだって? 私の回路は前の戦闘で壊されちゃってるんだけどな」


「なんだと……? そこの虫けらかぁ!!」


カートの居場所が特定されている。

私はサッと射線に入り、


「な、防ぐだと!?」

「Vブレードは溶鉱炉じゃ熔けなくてねえ。ビームシールドじゃい」


『左手止めます!』


カートから通信が入り、直後ホストクラブのアホの左手が宙ぶらりんになった。


『全身義体のようです! システムハックいくらでもいけます!』


「ふざけんなふざけんな俺が最強なんだ!」


か、身体がビクンビクンしとる。大丈夫かこいつ。


身体の躍動が納まったとき、空気が変わった。


「一般人モード廃棄。戦闘システム445-03改稼働開始」


『ハックが急に堅くなりました! 気をつけて!』


先ほどのビームを空中からも出して5連射してくる。


「ふぅー押さえ込んでる。V.E.C.、魔導エネルギーは潤沢にね」


ぶるっと震えるV.E.C.。良い子だ。


持ち込んだ重火器、背負い式重ガトリング方を発射する。

……当たっているが弾かれているな。廃棄。

シールド防御中、急に垂直ジャンプをする。……上には追従性があまりない。

であればこれだ。


一気に猛ダッシュ。上空遙か彼方へと飛ぶ。

からの、ナノワイヤーでの立体機動。


グン


急降下!


グサリと刺さる。


私の胸に。杭が。動きを読まれていた。


「急所直撃を確認。これより対消滅ビームを掃射する」


杭を地面に刺され、身動きが取れない状況で死の宣告をされる。

まだだ、まだ……まだいける……。


『V.E.C.から通信です! 何でも今から飛び出すから左手で掴んでいけ好かねえ野郎の胴体に向けてほしいって! 絶対手放さないでって!』


V.E.C.が? と同時に本当にV.E.C.が飛び出してきた。

私はV.E.C.のエネルギーで動いているので左胸は別に急所でも何でも無い。

ほいっと左手で掴み、元ホストへと向ける。


V.E.C.が自分の球体を開くように展開、エネルギー放射する。

元ホストが胴体からエネルギーを放射。


無から生まれるエネルギーと、粒子を無に帰すエネルギーのぶつかり合いが起こる。

結局エネルギーなので最終的なものは同じなんだけど。

凄いエネルギーがぶつかりあっている!


「次元が荒ぶってる! 異次元空間に引っ張られるかも! なにがなんだかわからないよこれ!」


V.E.C.はどんどん出力を上げる。

超硬魔導金属でもひしゃげてしまうその火力よ。

手では支えきれなくなり、腕。

そして肘まで四つに裂ける。


「さすがにこれ以上は難しい……」



というところで放射が止まった。

光が納まったころにはV.E.C.は対消滅機関を飲み込んでいた。


『お嬢様! エネミーロストです! 勝ちましたよ!』


「いやー良かった良かった。でも骨格ごと手が曲がってるんですけどこれどうするの? 叩けば曲がるものでもないんですけど」


そこに対消滅機関を食べたV.E.C.が戻ってきておなかにイン。もぞもぞすると、あらまあ、綺麗な骨格になったじゃないですか。


「ありがとうV.E.C.。んじゃあさあ、皮膚とかも再生できないかな」


…………………………


「そっか、うん、ありがとう」




「喜べ、骨格の合成と魔導含有率が上がったぞ。超硬魔導金属改といったところだな」

「ありがとうパパ、でも皮膚が再生した方が良かったな」

「あの物理障壁、うちのなんですよ。復興予算ほとんど吹き飛びましたよぉ!」


ここはトメさんの食堂。みんながみんなわいわい言っている。

そこに見覚えのある人が一人。

「遠藤さん!? どうしてここに!」

「俺を殺せるなら殺してみろってんだ。いろんな所に顔を出していたのがバグってスパイ容疑かけられちまったが、この通りよ」

「あのネックレスは? 処分しました?」

「ああ、プラスチックのネックレスのことかい。騒動で泣いていた子供にあげちまったよ。あんなの子供おもちゃ。ジャミング装置なんかじゃねえ」


なんだよーもーよかったー。


「それじゃ、加藤さん」

「うん。今日は飲んでくっていいぞ。私の奢りだ、乾杯!!」

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