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生まれたばかりの人間は視力が発達していないらしい。
ジゼルがいくら目を開けても、周囲の風景は
明暗はわかるが、
そのかわり
ジゼルは自分に向けられる言葉や、近くで交わされる会話に耳を
その結果わかったのは、ここはサフィール
(ほ、本当に帝国の皇女だなんて……!)
平民に生まれ、孤児院で育ったジゼルにとって、皇族など雲の上の存在だ。
(私はやっぱり死んだのね。そして帝国に生まれ変わった……ということ?)
心はとまどうばかりだが、体は生まれたてほやほやの新生児。
自分の手足なのにうまく動かせず、言葉を話そうとすれば泣き声になってしまう。
(ね、眠い……。赤ちゃんの体ってこんなに眠くなるの……?)
強い
一日のほとんどを眠って過ごし、やがて二カ月が
アンジェラの視力も少しずつ発達し、色彩や物の形状がわかるようになってきた。
(色……! 色があるわ!)
最初に認識したのは赤。それから
(寒色系を見るのが難しいなんて、思ったこともなかったわ)
赤ちゃんの体でなければ知ることのなかった事実である。
やがて生後三カ月を過ぎると、追視ができるようになった。動くものに反応して、自分で上下左右に頭を動かして、対象を目で追うことができるのだ。
逆に言えば、これまでは頭さえも自力で思うように動かせなかったということだ。
そんな状態のため、自分の足で立って歩くなどまだまだ果てしなく遠い
(人間、未熟すぎる……!)
ひ弱にもほどがある。野生動物だったらとっくに死んでいる。
しかし幸いにもアンジェラは人間で、しかも皇帝の皇女であるため、自力で動き回れなくても多くの人間が大切に世話をして育ててくれた。
「
朝一番に元気よく飛び込んできたのは第一皇子のミッシェル。十歳。
ミッシェルは明るく破顔しながら、アンジェラの寝ているベッドに
「アンジェラは今日も可愛いですね」
兄の横で
ラファエルは落ち着いた
「アンジェラ、だいすきだよ!」
兄たちの間から顔を出したのは第三皇子のガブリエル。五歳。
ガブリエルは
三人の兄たちが
「女の子の服はどれも可愛らしいこと。目移りしてしまうわ」
(え! あれ、私のお洋服なの!?)
母がいるあたりで先ほどから、赤やピンクの布のようなものがちらついていると思ったのだ。どうやらメイドたちが色とりどりの
「この色もこの
ジョゼフィーヌは
「
(全部!? 仕立てすぎじゃない!?)
正確に何着分あるのかわからないが、明らかに多すぎる気がする。
「ずっと男の子ばかりで
「そうですとも! 皇女殿下は何をお
「お名前の通り、天使のようにお可愛らしくていらっしゃいますわ!」
楽しそうに言い合う女性
「ねぇ母上。アンジェラをだっこしてもいいですよね?」
甘えた声でおねだりするガブリエルに、ジョゼフィーヌが
「気を付けなさいね、ガブリエル。人形ではないのですから」
「わかってます。こんなにかわいい人形がいるはずないので!」
「それもそうね」
アンジェラの首がすわったと医師が認めて以来、晴れて兄たちの悲願だった抱っこの許可が下りたのだ。念願叶った兄たちは喜色満面、かわるがわる妹を抱っこしている。
「アンジェラ、かわいい! やわらかい! すっごくいいにおいがする!」
ガブリエルは大喜びしながら、アンジェラにキスをした。
「ぼく、弟か妹がほしかったんだ。だからアンジェラが生まれてきてくれてうれしい!」
ガブリエルは五歳。つまり五年間ずっと家族の末っ子だったため、下に弟か妹がほしいと願っていたそうだ。
「ね、兄上。うちの末っ子はもうアンジェラですもんね」
「そうだな。だが末っ子でなくなっても、ガブリエルはずっと私たちの可愛い弟だぞ!」
「そうですよ、ガブリエル」
ミッシェルがガブリエルの頭を
三人の兄たちが同時にアンジェラを見つめた。
「「「生まれてきてくれてありがとう、アンジェラ」」」
(お兄様たち……! んんっ)
兄たちの優しい言葉に感動したというのに、口から出たのはしゃっくりだった。
アンジェラの小さな胃が動いて、げぷっと
(どうしよう! 高そうなお洋服を
ジゼルだった頃の
(
「アンジェラ、だいじょうぶ? ぐあいがわるいの?」
ガブリエルが心配そうにのぞき込んだ。妹は体調が悪いのかと不安になったらしい。
「小さな子はよく吐き戻すものなのですよ。あなたたちも赤ちゃんの時はそうだったわ」
ジョゼフィーヌは特にあわてることもなく、ゆったりと構えていた。母は強い。
「ガブリエル様、失礼いたします」
「アンジェラ様のお
メイドたちがアンジェラを抱き上げ、ベビーベッドに連れていく。ベッドの周囲のカーテンを閉めれば、着替えの様子は他の者には見えなくなった。
「アンジェラはまだ小さいから、ミルクを吐いてしまうこともあるのですね」
「それならいくら汚しても
カーテンの向こうでラファエルとミッシェルがそんなことを話しているのが、アンジェラにも聞こえてきた。
「母上、ぼくもアンジェラにドレスをプレゼントしたいです!」
(いやいや! さっきお母様が山ほどお買い上げしたばかりじゃない!?)
可愛らしく言ったガブリエルにアンジェラは目を
「そうだな。私たちからも
「ええ、そうしましょう」
(もういいよぉ!
そう
「アンジェラ様は首にお花の
(そうなの!?)
「まぁ、まるで
(薔薇の形の痣って、まさか……
聖痕は聖女として認められる条件の一つだ。聖女は体のどこかに薔薇の花のような痣を持っている。ジゼルは
(聖痕のはずがないわよね……だって……)
聖痕は聖女の
サフィール帝国生まれ、ましてや皇帝の皇女であるアンジェラが、王国の聖女であるはずがない。
きっとたまたま花の形に見えなくもないだけの、ただの痣なのだろう。
(孤児院の子どもたちにも、生まれつき痣のある子はいたわ)
体に先天的な痣があることはめずらしくない。そのまま残ることもあれば、成長とともに
(
そう思いながら、着替えが
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