序章ー2



*****



 あくる日、ジゼルは牢から引きずり出された。

 両手を縛られ、足にかせめられる。神殿に引き取られて以来ずっと伸ばしていた長い髪は、ばっさりと短く切り落とされた。

 ろうかつで意識がもうろうとする中、兵士にかれながら裸足はだししで歩く。広場の中央にはまきが高く組み上げられ、多くの民衆が集まっていた。

 リルを説得するために言った『釈明の機会』がジゼルに与えられることはなかった。真実を訴える場が設けられることも、法の下に公正な裁判が行われることもなかった。

 ――罪人の言い訳など聞けば耳がけがれる。王太子ナタンがそう言い放ったのだ。

 おうこう貴族であれば、罪に問われて死をたまわる場合でも、どくはいをあおる方法が許されている。

 しかし平民出身であり、魔女のらくいんを押されたジゼルには、そんなめいと尊厳を保った死に方は許されない。

 魔女とされた者のしょけい方法は一つ――火あぶりと相場が決まっている。


「王妃様を殺した魔女だとよ!」

「とんでもない悪女だな!」


 乱れ飛ぶごうきょうかんぞうごん。人々は格好のらくを見つけたかのようにこうようし、ざわめき、今か今かと処刑の時を待っていた。


「聖女をかたった魔女め!」


 人だかりの中からせいが飛んで、ジゼルのこめかみににぶい痛みが走った。誰かが石を投げたのだ。

 ジゼルの額が切れ、血が顔を流れるのを見て、民衆の興奮はさらに大きくなった。


「俺たちの納めた血税で、ぜいたくな暮らしをしやがって!」


 ジゼルは贅沢な暮らしなどしたことはない。

 神殿はせいひんを尊び、しゃたましいおごらせると説いて、聖女であるジゼルにも過度なほどの質素けんやくを強いた。食事さえ満足に与えられないので、同じきょうぐうだったリルといっしょに野草や木の実を採取してえをしのいでいたくらいだ。

 だが人々はそんな事情など知るよしもなく「魔女め!」「死ね!」「思い知れ!」と口々にさけんでいる。

 続けざまにいしつぶてが降り注ぐ。流血でかすむ視界の中、ジゼルは必死に広場を見回した。


(リルは|捕《つか)まっていない……)


 罪人としてとらわれているのはジゼル一人だけだ。リルが捕まったけいせきはない。


(よかった……)


 リルはきっと無事に逃げられたのだ。そう思うと、心の底からあんがこみあげた。


「火を放て!」


 命じる声とともに、火口がられた。


「魔女め! 思い知れ!」


 組まれた枝の上に火花が落ちる。

 へ、わらへ、薪へと燃え移りながら、火はまたたごうぜんとしたほのおになった。


(熱い! 熱い! 痛い……!)


 かれたえんが足元からがってくる。激しく立ちのぼるけむりのどふさぐ。燃え上がる火柱がジゼルを包み込む。

 しゅうじんふくが焼ける。皮膚がげる。「ねずみのようにくすんだ灰色」と笑われたジゼルのホワイトブロンドの髪が、れんの炎に焼かれて、本物の灰へと変わっていく。

 もうれつな熱さと苦しさに意識が遠のいた時、視界のはしがほのかに光った気がした。

 ふと、呼吸が楽になる。

 まるで神がつばさを広げて、その白い羽の中に優しく包み込まれるかのようだった。

 さしのべられる大きな手に身を委ねたまま、ジゼルは意識を失った。

 かつて孤児だった少女「ジル」は、聖女「ジゼル」になった。

 そして、今。

 聖女ジゼルは魔女におとしめられ、わずか十五歳でけいに処されたのだった。

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