3-2
*****
昨夜の治癒のせいでミリアは
そんな一日を過ごしていた夕刻、カチャリと鍵を開ける音が聞こえ、扉が開けられた。そこに立っていたのは、一カ月ぶりに見るハンナだった。
ノックすらしないのだな、と思いながらミリアが
『昨晩の君の
──ジルベスターより』
助けたのはジルベスターではなく、彼の取り巻きの者たちだ。なぜジルベスターから礼を受けなければならない。とミリアはディナーなどどうでもよく感じてしまった。しかし相手は王族であり
「それでは今から支度に入ります」
何の? とミリアが聞く前にドレスやら
そして今、鏡台の前に座るミリアの
──そんなに
ミリアがそう思っているとハンナの手に力が
「っ!!」
「貴女のような平民が閣下と席を同じにするなんて本来ならあるまじきことなの。いい? 閣下に何を言われても返事は『閣下のおかげです。ありがとうございます』よ。分かった?」
再びハンナの手に力が込められ、ミリアの後頭部からブチブチと毛が
「痛っ!」
──この女、
そもそもミリアは気の強い性格だ。気が付けばミリアも手を
「は、放しなさいよっ!!」
ハンナが言ったと同時に二人はバランスを
「このっ!!」
ハンナは
「ハンナ様っ!! お時間が
思わず目を閉じるミリアだったが、他のメイドが止めに入り、打たれずに済んだ。さすがにジルベスターに会わせる前に
ハンナの性格は最悪だが、
ドレスの着付けが終わると、ミリアはハンナに連れられて食堂へと向かう。赤いレンガの建物を出て、領主の居城へ入る。そしてしばらく歩くと両開きの扉の前に到着した。
「余計なことを言ったら貴女なんて
少しだけ振り返り、ハンナはミリアへ言い放つ。ミリアもハンナを睨み返し、やれるものならやってみなさいよ──そう言い返したかったが、その前に扉が開かれ
食堂ではすでにジルベスターが着席していて、ミリアを認めるとすっくと立ち上がった。
「よく来てくれた」
「本日はお招きいただきありがとうございます」
ミリアはスカートの
「おっと、大丈夫か」
ジルベスターはそっとミリアの体を支え、彼女の様子を見る。ひと月ぶりに見る彼女の姿は、服装こそ
「失礼
「いや、構わない。調子が悪いのか」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
再びミリアは軽く
「さあ、かけてくれ」
「失礼します」
ミリアが席に着くと目の前には見たことのない
ここ一カ月まともに口にしていない肉料理や魚料理。野菜もスープに
しかし粗末な食事しか
食事が始まっても食欲が
「君は本当に腕のいい治癒士のようだな。治癒士の中でも解毒ができるのはほんの
「
「四人の解毒は見事だったそうだな。どのような修練を積んだのか聞いてもよいだろうか」
「修練と言うほどでは……。解毒に関しては経験がありませんでした。しかし食中毒の
「なるほど、医術の基礎が。それは頼もしい。これで私がいつ毒を盛られても安心だな」
その言葉にミリアは
「君が解毒してくれた四人は私を支えてくれる大事な側近たちだ。彼らが居なくては私の仕事も立ち行かなくなる。君がここへ
「恐れ入ります」
「君には
欲しいもの……そんなものはない。ただ大好きな治癒士の仕事をして、人と接し、簡単でも
そしてミリアはこの食事会の後がどうなるのかを想像した。
またあの部屋に閉じ込められ、囚人のような日々を送るのだろうか。
──もう、こんな生活
そう考えるとミリアは椅子から立ち上がり、
「ど、どうした」
「閣下、褒美をいただけるのならば、是非お願いがあります」
「な、何だ、言ってみなさい」
「私を部屋から出して下さい。そして仕事をさせて下さい。閣下が
「……ちょっと待て。報告では、君は毎日お茶会や買い物をしていると聞いているが」
「それは私ではありません。私は部屋の外から鍵をかけられ、誰とも会わず、一歩も外へ出られない生活をしています」
ジルベスターはミリアの言葉の
「ミリア、君の部屋はどこに?」
「赤いレンガの建物の三階です」
「赤のレンガ
赤のレンガ棟とは、貴族や領主一族が悪事を働いた時、
どうしてミリアがそんな扱いを受けているのか。ジルベスターはヘンドリックスに、ミリアが恙なく暮らせるよう、生活
「それは……すまないことをした。君の置かれた状況について確認するから、少しだけ時間をもらえるだろうか。君には今晩から別の部屋、いや城内では誰が信用できるか分からないな、宿を紹介しよう。そこなら君を不当に扱う者は居ない。さあ、立ってくれ」
ジルベスターも椅子から立ち上がり、ミリアに手を差し伸べた。
「ありがとうございます」
ほっとした表情を浮かべたミリアは、遠慮がちにジルベスターの手を取る。そして立ち上がろうとした
「お、おいっ!」
ジルベスターは慌ててミリアを
──こんなになるまで……。
ジルベスターは申し訳ない気持ちと同時に、ふつふつと何とも言えない感情が湧いてくるのを感じた。
この腕の中の女性は一カ月もの間まともな食事を与えられず、赤のレンガ棟で幽閉されていたにも
いったいどのような気持ちで治癒したのか……そんなミリアの
──守ってやらなければ……。
そう思うジルベスターだった。
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