2-3


*****


 ジルベスターはミリアが自分の元へ嫁いでくれたことを喜んでいた。


 本来なら、強力な治癒能力を持つ聖女との婚姻を望んでいたのだが、りんせつするフランベルデていこくとの関係がきんちょう状態にある今、この危険な辺境領へ進んで嫁いでくれる聖女はだれ一人ひとりとして見つからなかった。


 聖女とは、豊富な魔力を持ち、じゅうとくな怪我や病気を治癒することのできる貴族の女性のことを言う。彼女らは王都にある大神殿で、高いおを納めることのできるゆうそうを相手に、しんこうと、お金と、よりよい嫁ぎ先をつのるべく治癒魔法を使っている。


 ジルベスターもえんだんの候補として何人かの聖女と交流を持ったが、どの聖女も派手なドレスに身を包み、わがままで、王族であるジルベスターに対してさえひざいて愛をえと言ってくるようなごうまんな女性ばかりだった。


 それが戦が間近にせまっていると聞くやいなや、彼女らは潮が引くようにジルベスターからはなれていった。


 それでもジルベスターが聖女との婚姻を望んだのは、フランベルデ帝国からひんぱんに暗殺者が送られてくるからだ。先日も城内でしんな人物がばくされたばかりである。


 日に日にその身の危険を感じていたジルベスターは、辺境伯として国境を守るため、そして少しでも生き延びて戦に勝つため、聖女との婚姻は必要不可欠と考えていた。


 しかしいずれ戦地となるだろうこのヴェルサス領へ嫁いでくれる聖女など居ない。困っていたところに声をかけてきたのがミリアの実の父親、トマソン・マイワール伯爵だった。


 トマソンは、下町の診療所で治癒士をしているミリアが、自分の娘であることをあくしていた。魔力量こそ少ないが腕はいいらしく、何かに利用できると思っていた。そこへ聖女との縁談が難航しているジルベスターのうわさを聞きつけ、金になると思いこの話をけたのであった。


 ジルベスターは早速、トマソンの庶子であるミリアという娘が、どのような人物か調べた。せいで治癒士としてかつやくするミリアは、そのうでもよく、遠方からも患者が通い詰めるほど。母親は六年前に他界し、後見人でもあるブルックナー夫妻にかわいがられて育つ。そして地域の住民にも愛されていた。


 ジルベスターは実際に治癒をしている様子を見てみたいと思い、訪問しんりょうを受けているイースターしゃくらいして、ついたての裏から見せてもらうことにした。


 もくもくと治癒魔法をかける彼女の姿は、ジルベスターの知る、派手なドレスに身を包みこうすいにおいをきながら治癒魔法をかける聖女らとまるで違っていた。それに子爵家での評判もよく、ジルベスターはミリアをとても気に入った。しかもその時に見た、地味なメガネにそばかす顔とは違って、今目の前に居る彼女はとてもかわいらしい。


 二年だけのけいやく結婚ではあるが、彼女には快適に過ごしてもらいたい。そう思うジルベスターだった。



*****



「ミリア、私は君との婚姻を喜ばしく思っている。しかし君には最初に言っておかねばならないことがある。この婚姻は二年で解消する契約結婚である。申し訳ないが、私が君を愛することはない。それでも君がつつがなく暮らせるよう、十分なはいりょをするつもりだ。もちろんこんの生活は私が保証しよう」


 ミリアはジルベスターが告げた言葉に何かがストンとに落ちるのを感じた。


 ――そうよね。平民として生きてきた私が、閣下と婚姻だなんておかしいもの。何か理由があって、二年間だけかりそめの婚姻を結ぶ必要があったのね。


 そう思っても、なぜ自分が選ばれたのか分からない。治癒魔法が必要なら聖女と婚姻を結べばいいのではないか。


おそれながら、閣下」

「どうした、言ってみよ」

「治癒の能力にしても身分にしても、聖女と婚姻なさるのが一番適切かと存じます。私は市井育ちで、貴族の常識やマナーも存じ上げません。どうか、元の場所へ私をお返し下さい」


 少し非難めいた言い方になってしまうのは仕方がないだろう。こんなところまで無理やり連れて来られた身としては今すぐにでも帰りたかった。


「貴様! 閣下に対してなんと無礼な!」

「ヘンドリックス。仮初でも彼女は私の妻である。そのような口のかたつつしむように」

「し、失礼致しました……」


 ―― 私を、かばってくれた?


 ミリアがジルベスターの言動を意外に思っていると、彼は「実は……」と切り出し、辺境領での戦が近いことや婚姻を結ぶ聖女が見つからないことなど、事情を説明してくれた。


おおやけにもしない、式もろうえんもしないこの婚姻に君も思うところがあるだろう。しかし今は非常事態ということで受け入れてもらいたい」

「……はい、慎んでお受け致します……」


 そこまで言われてしまえば、ミリアにこれ以上あらがうことはできなかった。


「要望があればえんりょなく言って欲しい。君の望むことはなるべく叶えたいと思っている」

「ごこうに感謝致します」


 売られるようにして連れて来られたことになっとくはしていないが、この仮初の婚姻にはそれなりの理由があるのだと理解した。それに――。


 ――ジルベスター様は今まで接してきた貴族たちとは何か違うわ。きちんと裏表なく説明してくれて、私を蔑んだりしない。


 信用できるとまでは言い切れないが、うそいつわりなく話してくれたジルベスターに対して好感を持つミリアだった。


「ヘンドリックス、ミリアが恙なく生活できるよう配慮するように」

「はっ」


 こうしてジルベスターとの謁見を終え、二人の白い結婚が始まりを迎えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る