第02話「謎のおっさん」

「しろまる、汚れるからちょっと離れてろ」


 言うが早いか、ナタを一閃。

 最初の一振りで、脚が1本、根元から外れた。

 青い血液が吹き出す。

 忍は血液の跳ぶ方向まで予想して、一歩蜘蛛の右へと歩みを進めた。

 同時に、ほんのわずかに首を傾ける。

 そこをかすめるように蜘蛛の糸が飛んだ。

 もう一振り。

 2本目と3本目、4本目の脚が根元から外れる。

 右側の脚がすべて切り落とされた蜘蛛は、なすすべもなく石畳に崩れ落ちた。


『なんだ? 今なにした?』

『あんなナタの一振りで脚3本も切れるかよ?!』

『特定班! こいつ誰?!』

『さっきから調べてるけど、wikiに載ってないんだ』

『おかしいだろ、ダンジョンチューバー登録してる奴は全員wikiに載ってるはず』

『違法冒険者かもな』


 そこから先は、まさにだった。

 逆の脚をすべて切り落とし、最後に頭胸部と腹部を切り離す。

 牙や毒袋、糸袋を切り落として、持っていたロープで脚をまとめた。

 その間に文芸部の3人はなんとか体勢を立て直す。

 命が助かったことに安堵しつつも、中層ここからの帰還にこの満身創痍な状態で挑まなければならないことに、みきは頭を抱えた。


「よし。しろまる、帰るぞ」


 それまで文芸部の3人のまわりを漂っていた毛玉は、ふわふわと忍の元へと向かう。


「じゃ、あの……蜘蛛……譲ってくれてありがとう」


 またぎこちなく頭を下げた忍を見て、みきはお礼も言っていないことに気づき、忍へと駆け寄った。

 愛理も肩をおさえながら近づく。


「あの! ありがとうございました! 助けていただいて!」


「うん、おじさんありがと」


「……お、おじさん?」


 忍は思わず振り返る。

 しかしそこには当然誰もおらず、「おじさん」は自分なのだという現実に、ひきつった笑顔をするしかなかった。

 頭を下げている二人を追い越して、両手を広げたうさぎは、何の躊躇もなく忍にハグする。

 さっきまでの素早い身のこなしはどこへやら、うさぎに抱きしめられた忍は、頭が真っ白になり、硬直したように固まった。


「おじさん! マジありがと! ウチら死ぬとこだったよ!」


「い、いや、は、離れて……」


 愛理とみきに引っ張られ、うさぎは引きはがされる。

 忍はちょっと震えながら、腰の袋から古びたポーションを3本、取り出した。


「は……う……あ、く、蜘蛛譲ってくれたお礼に……あの、これ、よかったら。ケガ……してるみたいだし」


 顔を真っ赤にして、返事も聞かずにポーションをその場へ置き、忍は焦ったようにその場を立ち去る。

 毛玉は挨拶するようにしっぽを振り、そのあとをついて暗闇の通路へと姿を消した。


「なんなのあの人……」


「すごく……つよかった」


「ポーションももらって良かったじゃん。これ飲んでウチらも帰ろ」


「ちょっと待ちなさいうさぎ。鑑定もしてないポーションを――」


 みきの止める声も間に合わず、うさぎはポーションの1本を飲み干す。

 オロナミンCくらいの小さな白濁したポーションを飲んだだけで、うさぎのすべての傷はあっという間にふさがり、疲労もすべて吹き飛んだ。


「わ……ぁ! これすごいよ! 愛理もみきも飲みな! ほら!」


 テンションの爆上がりしたうさぎに、二人はほとんど無理やりポーションを飲まされる。

 その瞬間、小さく「あ……」と声を漏らした二人は、恍惚とした表情になった。

 傷は癒え、疲労も回復。

 愛理が言うには、「魔力も全回復したみたい」ということだった。


『おいあれ、エリクサーっぽくね?』

『まさか、本物なら1本でF-15が買えるぞ』

『でもwikiの画像と同じだし、そもそも白いポーションなんてほかに存在しないぜ』


 現役女子高生ダンジョンチューバーグループ【さくら学園文芸部】の【浦安ジャンクヤード】中層探索は、無事に帰還まで配信される。

 この後、非公式ダンジョンwikiには、【浦安ジャンクヤードの謎のおっさん】という項目が追加された。

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