ダンジョン深層で引きこもってたら、いつの間にか都市伝説級の最強探索者になっていた~もふもふ幻獣としあわせ読書ライフを過ごすはずが、うっかり美少女JKパーティを救った姿を世界中に配信される~

犬河内ねむ(旧:寝る犬)

謎のおっさんは都市伝説じゃありません

第01話「浦安ジャンクヤード」

管理番号:JP-B-0479-0002。

通称:浦安ジャンクヤード。

2025年12月19日 14時24分。

ダンジョン中層ちか7かい


「あっ! まずいっ!」


 右足首を粘着質の糸に絡み取られ、宮辺みきはしりもちをついた。

 不規則な石畳に立ち上がったのは、みきの身長の倍はありそうな、巨大な蜘蛛くも

 どす黒い体からファミリーサイズのペットボトルほどの太さの脚を伸ばし、その化け物は、鮮やかなエメラルドグリーンの8つの瞳で彼女を見下ろした。


「ぶちょー! 下がれし!」


 金髪のツインテールを揺らし、中倉うさぎが剣をふるう。

 風のうなりをまとった剣はまっすぐに蜘蛛の脚にたたきつけられたが、その表面の体毛を数本、切断しただけに終わった。

 蜘蛛は、うるさそうに脚をふるい、うさぎを吹き飛ばす。

 岩壁に激突したうさぎは、息をすることができず、その場に倒れた。


電子網サージグリッドよりほとばしれ! サンダーボルト!」


 小さな体の前に杖を構え、栗本愛理が詠唱する。

 しかし、杖の周囲に集まった紫色の雷撃は、敵を撃つことなく、中空に霧散した。


「あ、ごめん。魔力切れ――」


 言い終わるのも待たず、蜘蛛の糸が杖をはじき、壁に縫い付ける。

 愛理はその衝撃で、肩の関節を痛め、ひざをついた。


『やべぇぇ! なにこのモンスター!』

『wikiによると【ゴライアスマンイーター】っぽいけど、サイズがデカすぎる!』

『ここ中層だろ?! そもそもゴラマンは深層レベルのモンスターじゃん!』

『それより【さくら学園文芸部】やられちゃうぞ! 誰か通報しろよ!』

『この状況で通報したって遅いだろ』

『文芸部にはまだBランクダンジョンの中層は早かったんだ』

『みんな! 逃げてくれー!』


 ドローンによるリアルタイム配信のチャット欄に悲鳴が満ちる。

 巨大な蜘蛛は、あざ笑うかのように毒牙をカチカチと鳴らし、ゆっくりとみきに近づいた。

 視界を巨大な『死』そのものが覆う。

 恐怖に膝は震え、みきは目をつぶることすらできず、ただ死の瞬間を待った。


――その時。


 視界の端に、一抱えはありそうな純白のがふわりと漂う。

 タンポポの綿毛のように、短いしっぽを揺らした毛玉は、まっすぐに蜘蛛の視線を遮った。


「おーい。しろまるー。今日の散歩コースはこっちじゃねぇだろー」


 場違いなほど、のんびりとした声が響いた。

 みき、うさぎ、愛理の視線が暗闇の向こうに吸い寄せられる。

 毛玉を追って通路から姿を現したのは、ヨレヨレの黒いパーカーを羽織った、無精ひげの男、佐伯忍だった。

 擦り切れた文庫本を手に、忍は驚いたように立ち止まる。

 3人の女子高生を順番に見た後、忍は少し目を伏せ「あ、ど、ども。あの……コンチワ……」と会釈した。

 ほんのわずかな沈黙の時が流れる。

 その後、みきは状況を思い出したように、声を上げた。


「そこの人!  逃げてください!」


 忍はもう一度驚いたようにビクッと肩をすくめ、今度は巨大な蜘蛛へと視線を向けた。

 ごくり……と喉がなる。


「えっと……」


 さえない無精ひげの男、武器らしきものと言えば、腰に下げた古びたナタだけのその男は、音もなくみきと蜘蛛の間に体を滑り込ませ、蜘蛛の脚を抑え込んだ。

 よどみない歩様。

 まるで達人の足さばき。

 そして忍は、申し訳なさそうに申し出た。


「もし……よかったらなんだけど……こ、この蜘蛛、ゆずってもらえないかな」


「え?」


 言っている意味が分からず、みきは聞き返す。

 壁際でなんとか剣を手に立ち上がったうさぎも、ほぼ同時に「は?」と声をそろえた。


「あ、おれ今日の食材探してて……」


「食……材?」


蜘蛛これが?」


「あ、食べたことないと思うけど、こいつ茹でるとカニみたいな味で結構うまいんだ」


 もう一度ごくりとつばを飲み込んで舌なめずりすると、忍は蜘蛛を見つめる。

 その言葉に文芸部の3人は言葉を失ったが、逆にチャット欄は大盛り上がりだった。


『リアルダンジョン飯www』

『この大きさのカニなら確かにうまいだろうよ』

『いやまて、ふざくんなwww』

『たしカニ。同じ甲殻類ではある』

『なにこれ? 茶番?』


 蜘蛛は、忍に押さえつけられ、動かすことのできない足にいらだちを示し、もう一本の脚を槍のように振るう。

 だが、忍は一歩も動かず、つかんでいた蜘蛛の脚をひねった。

 バランスを崩し、蜘蛛が地面に横たわる。


「えっと……いいかな、もらって」


 みきはただ、肯定の意を示し、何度も頭を縦に振った。

 忍は「ありがと」とぎこちない笑顔を向ける。

 振り返ると、読んでいた本に「栞」を挟み、腰に下げた古びたナタを、『ジャングルドットコム』のロゴが入った段ボールの鞘から、ゆっくりと抜いた。

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