第2話 モンスターだらけ
……ん?
意識が戻る感覚があった。いや、戻ったというか…あれ?俺まだ死んでないのか?
まとまらない思考をよそに、ゴボゴボと水が耳元を流れていく。うっすら揺れる光の感じを見ると、まだ水の中なのだろうか。
さっきは真っ暗で何も見えなかったのに、今は足の下から光が漏れている。
……光?
水の底に、光があった。
光って普通、上にあるもんじゃないのか?
じゃあ俺は今、浮かんでるのか?
でも感覚的には沈んでるんだよな…。
自分でも言っている意味が分からないが、その光に向かって落ちていくのだけは確かだった。
——ザバァッ、と体が水面を突き破る。
「――ッはぁ!!ゴホッゴホッ」
空気だ。
むせながらも必死で息を吸う。
大量に水を飲んで喉も肺も痛いけど、なぜか生きていた。
何で生きられてるんだあの状況で……。
ヘロヘロになりながら水から這い上がろうとした瞬間、視界が回転する。
そして背中の痛みと共にドスンッと堅い地面にたたきつけられ、その場に転がった。
もう何が起きたのかよく分からない。
今はもう頭が働かないのだ。
「はぁっ、はぁ、なんなんだよ……」
横になっていたら少し落ち着いてきた。
さっきは本当に死ぬかと思った。洗濯されるタオルの気持ちが分かった気がしたよ。
俺は仰向けのまま、ぼーっと上を見る。
ふう。なんか揺れてんな……光が歪んでてきれいだ。
……さっきまで俺はあの中にいたのかな。
……あの中に――
「…は?……はあっ!?」
天井が、水だった。水面になってた。
さっき俺が出てきた……っぽい場所。
そこに水の層があって、まるでゼリーみたいに揺れながら……天井になっている。
「……夢だろこれは」
そう言いながら頬をつねる。
ヒリヒリしてとても痛い。
天井を覆う水面の向こうは暗くて何も見えないが、水自体が薄青色に発光してて、この場所がぼんやり照らされている。
「っ痛。なんだここは……」
重い体をゆっくり起こしながら周りを見ると、そこは巨大な洞窟だった。
薄暗いけど、壁のあちこちで青や紫に光るキノコや晶洞が淡く照らしていて、なんとか周囲は見える。
「…………」
いやいやいやいや。
状況を整理しよう。地震があって、地面が割れて、水に落ちて、溺れて、瓦礫(たぶん)に押しつぶされて——気づいたらここにいる。
「ここ、どこだよ!……あっそうだ、スマホ…!」
俺はポケットに奇跡的に入っていたスマホを確認するが、画面は真っ暗。大きなヒビが入っているから、そこから水が入ってしまったのだろうか。
俺のスマホ……水と衝撃に強いはずなのに……。
「はあ、とりあえず出口探すか……。出口がこの水の中ってことはないよな…?」
そう思いながら頭上の水面を見る。
あんな目に合ってすぐに水中に潜るのは気が引けた。
「違う出口を見つけるぞ~!お~!!」
シーン…としてる洞窟が怖くてあえて声を出して歩く。
俺は意外とビビりなのである。
◇
どのくらい歩いただろう。
十分か、二十分か。
幸い血が出るほどの怪我は二の腕のみで、靴下で止血して、なんとか歩き続けることができた。
「どこまで行っても~俺は~ひとり~」
――ドスッ、ドスッ
健気に進んでいると、先の方から重い音がした。もしこれが足音だとしたら、どう考えても人間の物ではない。
だってこんなに地面の小石が揺れてるもん。
俺は咄嗟に岩陰に隠れ、息を殺す。
――ドスッ、ドスッ
洞窟の広い空間に重い音が響くのと同時に、何かが現れた。
四足歩行で全長十メートルはありそうな巨体。
体表は深い青色の鱗に覆われていて、まるで磨かれた宝石みたいに光を反射している。
左右一対の頭角のうち片方が、真ん中くらいで折れていた。
ドラゴン……じゃん。
ゲームや漫画でしか見たことないけど、あれはどう見てもドラゴン。
……いやいや。
現実にそんなもの……いるわけないだろ……。
しかし現実逃避を阻止するかのように、そのドラゴンは壁の晶洞をバリバリと齧り始めた。
宝石みたいに光る結晶を、やたら満足そうに咀嚼してる。
……石、食ってる。
見なかったことにしよう。
そして二度と出会わないことを祈ろう。
幸いあのドラゴンは食事に夢中のようだ。
俺は音を立てないように、そっと後退した。見つかったら絶対に殺されるからね。
今は石食ってるけど、『お腹すきすぎて石しか食べるものがないだけ』だとしたら、俺は終わる。
死角まで来たところで、違うルートを探して再び歩き出した。
ドラゴンに見つからなかった事に安心したのもつかの間、この洞窟はモンスターだらけだった。
角が五本あるやつ。目が十個以上あるやつ。
足が何本あるか数えたくもないやつ。
全部動物図鑑に載ってない生き物ばかりだ。
あの光る水面のところは何もいなかったのに、なんでこんな出てくるんだよ!
そう全力で叫びたいが、どこでモンスターと鉢合わせるかわからないのでとりあえず息は殺している。
俺は岩陰から岩陰へ、忍者のように移動していった。
中二病全盛期が3年前だったので、まだ忍者脚は衰えていない。
何度か目が合いそうになったけど、そのたびに別のモンスター同士が威嚇し合ってて、そっちに気を取られてくれた。
これは完全に運だよね。
朝寝坊して生徒指導の先生に怒られたおかげで、今度は運がまわってきたんだと信じよう。
そのくらい楽観的でいないと……恐怖で足が動かない。
まあその運も、いつまでもつかわからないし早く移動しなければ――そう、次の岩陰に身を潜めた時だった。
――ボフッ
何か黒いものが、目の前に転がってきた。
……なんだ?
見ると、少し先にデカいモンスターがいた。クマみたいな体格に、水牛のような角が生えた獣。
どういう進化を遂げたらそうなるのか不明だが、そいつが鬱陶しそうに足を振っている。
蹴り飛ばされたのか?この黒いの。
黒いもじゃもじゃした塊は地面でぴくぴく震えていた。
排水溝に溜まった髪の毛の塊を五十倍にしたらこんな感じだと思う…。
ハッとして獣を見ると、こっちに歩いてきていた。
さすがに近づかれたら岩陰じゃ隠れきれない。
焦って周りを見ると、少し先の壁に人一人がなんとか入れるくらいの隙間があった。
俺は急いで隙間に走ろうとするが、目の前の黒いもじゃもじゃが気になってしまった。
だってなんか…蹴り飛ばされて可哀想じゃん!さっきから小さくヒューヒュー聞こえるし!
――ガウアッ
悩んでたら獣はもう目の前まで来ていた。
「ああっもう!!」
もじゃもじゃを鷲掴みにすると、隙間に向かって全速力でスライディングする。
ピッ――と首の後ろを何かが掠め、少し風を感じた。
髪の毛が何本か持っていかれた気がする。
——ガウアァッ!!
——ガリガリガリッ!
「きゃあああああ!!!」
俺は黒いのを抱えたまま、ホラー映画を見たときの碧みたいな声を出してしまった。
獣の爪が俺のつま先の地面を削り、今にも靴が引っ掛かりそうだ。
震えるもじゃもじゃを腕の中で抱え、必死に奥へ逃げる。
だが最悪なことに、すぐそこは行き止まりだった。
もうこれ以上奥には進めない――そう絶望しかけた時、足元の地面がぐらっと揺れた。
「うおっ――!!」
奥の地面が崩れて、俺たちは転がるように下へ落ちた。
◇
「いっててて……また落ちたのか?一体今日で何回落ちるんだ俺は…」
自分に呆れつつ上の方を見ると、今落ちてきた穴からあの獣が覗いている。
こっちへ来ようとしているけど、穴が小さくて入れないみたいだ。
――ガウッガウアァッ!
頼むから、頑丈な壁であってくれ……
そう祈り続ける。
モンスターはしばらく吠えたり爪でガリガリしてしていたが、諦めたのかどこかへ行った。
「はあ、助かった……」
なんとか生き長らえたようだ。
そして、腕の中のもじゃもじゃを思い出す。
無意識にまだ抱えてたらしい。
俺はそいつを地面にそっとおろして、改めて見てみた。
……なんだこいつ。
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