目覚めたら地球が異世界だった
宵零ルノ
序章 プロローグ
第1話 日常の終わり
青い空。白い雲。そして……俺!
こんなにも容赦なく照りつける空の下、必死で自転車をこいでいる俺の名前は
今年高校3年生になったばかりの十八歳だ。
起床後すぐに遅刻だと悟った俺は寝ぐせでボサボサになった髪の毛を水で濡らし、そのまま外に飛び出した。
今は自転車に乗りながら風を切ることによって髪を自然乾燥させている。
真夏ということもあり、汗でびちゃびちゃになっているようにも見えるがこれは水だ。断じて汗ではない。
いつもは遅刻しないよう余裕をもって登校しているのだが、今日は完璧にアウトである。
ブロロロ……――
家を出て約二分、強烈な日差しの中で自転車をこいでいると、後方から車の音と共に声が聞こえてきた。
「――ちゃーん。お兄ちゃーん!スマホ忘れてるよ~!」
「ああ、ありが……って
近づいてきた車には妹の碧が乗っていた。
碧は今年中学一年生になり、陸と同じ自転車通学のはずだが、今日はなぜか車の中にいる。
俺は自転車をこぐのを止め道端に止まると、車もその横に停車した。
碧はフロントドアから手を伸ばし、家に忘れてきた俺のスマホを手渡してくれる。
「今日は遅刻濃厚だったからお父さんに頼んで車出してもらった~」
「はぁあ?俺も遅刻濃厚だろ!なんで呼んでくれなかったんだよ」
「だって声かけようとしたのにすごい勢いで飛び出してくし、連絡しようにもお兄ちゃんスマホ忘れてるし……」
うっ……確かに急ぎすぎていたかもしれないが、今日の1限担当は生徒指導の先生なのだ。
校則や時間に厳しく、遅刻なんてしたら確実に怒られる。しかも怒ると声がデカすぎてとても怖い。
遅刻ギリギリだというのに妹と話をしている時点でまずいのだが、父の車で登校すれば今からでも間に合うのではないだろうか?
そんな淡い期待を思い付く。
幸いなことに我が家の車には自転車用のルーフキャリアがあるし……。
そうだ!俺の自転車をルーフキャリアに乗せてみんなで一緒に登校すればいい!
というかもはや、自転車はここに置いていこう!遅刻しない道はこれしかない!
そんなことを五秒ほどで思い付いた俺は、早速運転席に座る父にお願いする。
「父さん!俺も時間やばいから乗せて!」
「すまんな陸。父さんは十五分間のデートを楽しんでるんだ」
運転席に座る父にお願いするもあっさり断られた。
いつも夜遅くまで仕事をしている父は、家族と顔を合わすタイミングが少ない。だからか今日娘を車に乗せ、学校まで送り届けられることが嬉しいようだ。
家から学校まで車で約15分。その間娘と過ごせる時間をデートだと言っているのだろう。
あれ……でも顔を合わせるタイミングが少ないのは俺も同じはずなんだが…。
俺と対応違くないか?などと考えていると、いつの間にか車が発進している。
「ちょっ……」
慌てて自転車で後を追うも、すぐ先にある歩行者用信号機が赤に変わろうとしていた。
なんとか赤信号になる前に渡ろうと急ぐが――
「あ、お兄赤信号だよ」
「登下校ぐらいは運動するんだぞ~」
2人して車から手をふりながらそう言うと、そのまま学校方面へ消えていった。
結局俺は信号機の変化に間に合わず赤信号の手前で停止する。
なんだよ、登下校ぐらいは運動しろって!確かに運動はできてないが!帰宅しても椅子に座りっぱだが!
でも…
「ゲームの中では走り回ってるんだけどおお!!」
そんなのは運動じゃないという父の冷静なツッコミが聞こえた気がした。
◇ ◇ ◇
夏休み前最後の授業が終わり、チャイムが鳴った。
明日から長期休みだからか、みんないつもより賑やかに帰り支度を始めている。俺も帰ろうと鞄の中を整理していると、後ろから話しかけられた。
「やっと終わったー!陸、早く帰ろうぜ」
そういって誰よりも早く支度を終えた友人、
「……帰る支度早すぎるだろ。ちょっと待ってくれ」
「俺は早く帰って一緒にゲームがしたいからな!」
「……誰とだよ」
「お前に決まってるだろ!夏休みになったらPUGEやるって約束、忘れてないからな」
「約束しといてなんだけど、受験生がそんな呑気でいいのか……?」
「一日……いや、二日くらいは大丈夫だろ……」
「そう言って三日、四日って伸びていくんだろうな」
あきれたように言うが、空はまったく気にしていない。
むしろ想像の中ですでにゲームを始めているのか、顔がニヤニヤしている。
ジト目で見ていたら咳ばらいをして話題を変える空。
「ごほんっ……まあその話は置いとくとして、今日は散々だったな。陸が遅刻なんて珍しいじゃん」
「珍しいというか初めてだよ。昨日発売の新作ゲームをやりすぎて寝坊したんだ…」
「あぁ、そういえば昨日の帰りすごい楽しみにしてたよな。農場ゲームだっけ?」
「『ワイルドフロンティア』な。農場っていうよりは街づくりメインのゲームなんだけど、サバイバル要素もあるんだ」
「サバイバルとかは好きだけど街づくり系はな~……やったことないからわかんねえ……いつか魅力を教えてくれ」
「おっ、なんなら今日教えようか?」
「いや、今日はPUGEで」
ブレないやつだな……
どんだけPUGEやりたかったんだよ。
そう思いながら俺もやっと帰る支度を終え、席を立つ。
「よし、待たせたな。帰るか」
「おう」
俺たちは教室を出て駐輪場へ向かった。
駐輪場はところどころ錆が目立つが、年季が入ってるから仕方ない。
空とは帰り道が途中まで一緒なので、二人並んで自転車をこいで帰った。
放課後の生ぬるい風が制服の隙間に入り込んでくる。
ちなみにこいつは幼馴染で、昔からうちに遊びに来てたから妹の碧とも顔なじみだ。
「そういえば碧ちゃん、もうスタメン入りしたんだって?入学してまだ数ヶ月しか経ってないのにすごいな」
「ああ……こないだ家ですごい喜んでたけどそれが理由だったのか」
あの時かな~?と思い出している俺を、空は呆れ顔で見る。
「把握しといてやれよ……。男バス連中なんかみんな、『とんでもなく可愛くて~とんでもなくバスケうまい後輩が入ってきたッ!』って大騒ぎだったぞ」
「ええ……そんなことになってるのか。まああいつはミニバス時代から群を抜いてうまかったからなあ。運動神経いいし器用だし、ちょっとめんどくさいとこあるけど自慢の妹だよ」
チラッと左手のミサンガをみる。
碧が自分の好きな人にあげるための練習で作ったらしいが、シックな青色だったから貰っといた。
「運動神経はお前もいいじゃん。……バスケ、やってみりゃいいのに」
「今さら新しいスポーツ始める体力なんてね~よ」
「まっ、ゲームで忙しいもんな!」
「うむ。他にやることは無いのである」
そんな話をしているうちに、道が分かれる交差点にたどり着いた。
空の家は左、俺の家は右だ。
「じゃあまた夜連絡するわ!PUGEは絶対やるからな!」
「はいはい、俺しか一緒にゲームしてくれる友達いないもんな…」
「うるせー!!今日は寝かさねえからなー!」
そう捨て台詞を吐きながら消えていく空。
実際のところ、空が俺を気にかけてゲームに誘ってくれてるのはわかっている。
中学の引退試合。
最終局面の大事な場面で肘を壊して、自分の無力さにしばらく何もする気が起きなかった時期から、空は俺を気にかけてくれた。
高校に入ってもう一度野球部に入ったが、やっぱり肘の痛みが再発して結局退部。
今はゲームとバイトばかりの生活だ。
俺が碧や空をどこか羨ましそうに見てることが多分バレてるのか、時々スポーツも勧めてくるけど、深追いはしないんだよな。
またどこか壊して、新しく好きになったものができなくなるって思うと踏み出せないし。
……そういうのも全部、あいつは何となく察してるんだろう。
正直、感謝しかないよな。
いい友達持ったな~俺。今日はオールで付き合ってやるか~。
そんなことをぼんやり考えながらペダルを踏む。その時だった。
ガタンッ、と自転車が大きく跳ねた。
……ん?段差なんてあったか、ここ?
そう思った次の瞬間、ぐらりと視界が揺れた。
「っ……!?っうわ!まじかっ!」
地震だ。しかもハンドルを取られるほどの、大きな地震。
俺は自転車を支えていられず、倒れる車体を放り出して咄嗟に近くの電柱にしがみついた。
いやYoutubeの関連動画で見たけど、電柱は倒れるから離れなきゃいけなかったんだっけ……。
でも真上の電線と地面がぶんぶん揺れていて、離れられそうにない。
電線、降ってこないよな……?
そしたら絶対避けられないし、感電不可避だぞ……!
「なんだこれ……ッ、なんなんだよ……!」
地鳴りのような轟音が体の芯まで響いてくる。
ガラスが割れる音。誰かわからない男女の悲鳴。車のクラクション…全部ぐちゃぐちゃに混ざり合って、なにがなんだかわからない。
やばいやばいやばい止まれっ……止まってくれ——。
どのくらい続いたんだろう。十秒?二十秒?体感一時間くらいだったけど、ようやく揺れが収まってきた。
「はっ……はぁ……。なんだったんだ……」
息を整えようとした瞬間、足元にピキッと亀裂が走った。
「は?」
え、いやちょっと待っ——
亀裂はあっという間に蜘蛛の巣のように広がって、俺が立ってた地面ごと崩れ落ちた。
「うわああああっ!!」
真っ暗で何も見えない。アスファルトとか土砂と一緒に落ちてる…ような音がする。
腕に何か当たって痛い、と思う間もなく冷たい水に叩きつけられた。
ぶはっ——息が、全部持ってかれた。
水面に出たり沈んだりして、息を吸おうとしても水ばっかり入ってくる。
目を開けても真っ暗で何も見えない。
「ッは……いがッ……!っ……!」
肺が苦しい。空気がない。
やばい、これ本気で死ぬ——
その時、ゴロゴロと上から何かが落ちてくる音がしたと思ったら、水の流れが変わり一気に水中へ呑み込まれた。
壁か地面かもわからない何かに押しつぶされて、身動きが取れなくなる。
抜け出そうとすればするほど、口から空気が泡になって逃げていった。
あ……意識がぼやけてきた……。
碧。父さん、母さん。
今朝笑って手を振ってたあいつらの顔が、ぼんやり浮かぶ。
……ごめん、空。ゲームできそうにな……い……
そして、俺の目の前は真っ暗になった。
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