第3話 借金持ち聖女の担保は労働力
翌日から私は伏見小百合の言う通りにリリー・ウィルソンをイジメた。
「何よその髪飾り!装飾の一つもないのね!貧乏くさいわ!」
「これは村の人が手作業で作っているもので……あぁ!やめてください!」
三文芝居もいいところだ。いいのか、これで。だがリリーには同情の目が向けられ、私には取り巻きの令嬢以外からは冷ややかな視線が向けられるようになってきた。
「ローザ、言いすぎだよ。リリーが気の毒だ」
さらさらの金髪と晴れた青空のような碧眼の、見目麗しい王子。彼はわかりやすくリリーを擁護した。上手く
「あら殿下!本当のことを言って何が悪いのかしら?」
よく分からないが悪役令嬢ってこんな感じでいいのだろうか。だが周囲の反応を見るに正解らしい。小百合に演技指導を裏でしてもらいながら過ごしているが、正解が分からない。
リリーは周囲に人がいなくなってからグッと親指を立てて見せたので、上手く行っているのだろう。
学園祭当日。私は厨房のほとんどのオペレーションをリリーに任せた。インテリアのデザインはこっそりと二人で決めたが、『ローザの我が儘を通した』ことにしている。ローザが徹底的に『悪』であること、リリーに『同情が行くように』立ち回る。
そんなことをしていたら半年が過ぎた。
「いい方法を思いついたの」
私はこっそりとリリーを部屋に招いていた。
「伏見さん、市街に店を出す気はない?」
「店……ですか。確かに私は店長でしたけど……本部指示が多くてほとんど裁量がなかったんですよね」
「もう一度やってみない?資金は私が出すわ。あなたは私から『莫大な借金』を背負うことになるけども」
「借金……ですか?」
リリー、もとい伏見小百合は眉をひそめた。
「書類上だけね」
リリーが『聖女ブランド』で雑貨店を王都に開く。これはローザ・アマレッティの『黒薔薇商会』からの融資で、リリーは返済するまでは自由になれない。莫大な金額は勿論書類上だけだ。王子殿下の個人資産ではとても払いきれない額を契約する。王子と言えど、国庫資金を勝手に動かすことは重罪だ。『借金』をカタにして人質にしてしまうのだ。
そしてローザは『借金の取り立て』と称してリリーと利益を折半する。
『聖女は悪役令嬢に店主として買われた』――これで王子とリリーは結婚できない。さらに聖女ブランドを使えば利益は出せる。経営はリリーに一任。仕入とMDをローザが担当する。
「……面白そうですね。ゲームにはなかった展開です。自分の裁量でできる店舗運営……いいですね。VMDはお任せしても?」
「店舗レイアウトと仕入れアイテムの選定をお願いするわ。棚割を作るのはそれからね。それと……参考までに、あなたの『推し』って?」
「村の幼馴染の……家具職人です。ゲームだと攻略対象じゃないんですけど」
彼女は頬を染めて言った。本当に好きなのだろう。思わず目が細くなった。
「……ん?待って、攻略対象じゃないって言った?」
「そうなんです!」
小百合は身を乗り出した。
「このゲーム、王子殿下や騎士団長とか魔術師とか、そういう方は攻略対象なんですけど……なんでか幼馴染の彼は対象外なんです!おかしいですよね!?」
普通に考えればそうだ。幼馴染で主人公を見守ってくれるキャラクターが攻略対象に入っていないのは不思議だ。
「確かに、彼は王子殿下や騎士団長に比べれば器量は良くないかもしれません……けど!あの丸太みたいな腕!はにかんだときのあの優しい笑顔!何より一番リリーのことを気にかけてくれているのにも関わらず、ですよ。攻略対象外なのはずっと納得がいかなかったんです。今……和泉さんがこうして『ストーリーの枠』を出ようとしているのなら……可能性はあるかもしれません」
「ま、まあ好みは人それぞれと思うけれど」
「和泉さんはどうですか?好きなキャラクター、見つかりましたか?」
「……どうかしら」
それなりに恋愛はしてきたつもりだ。結婚も一度した。結局私が仕事に集中しすぎて家庭を顧みることがなかったせいで、不倫されて一年と関係は続かなかったのだが。
「この世界で結婚することは間違いなく『キャリアの墓場』になるわね」
「上流階級の方々はそうですね。奥方はステータスであり、外交カードですから」
「彼と……結ばれたい?」
小百合は少し考えてから、はい、と幸せそうに微笑んだ。
「辺境の村では結婚しても女性は普通に働きますから。むしろ、職人に弟子入りしてスキルを磨く方も多いんですよ。彼も私が働くことについて反対はしないと思います」
「なら、安心。さて、契約書を作成しておくわね。市街にいい物件があったら探しておいて。私は商会を立ち上げて、組合との交渉に入るわね」
「和泉さん。ありがとうございます。私……この世界では、上手く働けそうです」
私は息をつくようにふっと笑った。
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