第20話 エンディングはまだ先
朝日が、いつも通り街を照らしていた。
特別な演出も、ファンファーレもない。
世界は、昨日と同じように動いている。
ミナはギルドの掲示板の前に立っていた。
「……配達、掃除、護衛……」
並ぶのは、初心者向けの依頼ばかり。
「今日は、これでいいかな」
紙を一枚、そっと剥がす。
周囲の冒険者たちは、それを見て少し驚いた顔をするが、
もう何も言わない。
それが、日常になっていた。
道中、子どもたちが手を振る。
「ミナだ!」
「今日もがんばって!」
「……うん」
笑って返すが、胸は穏やかだ。
救世主と呼ばれることは、ほとんどなくなった。
“いて当たり前の人”になっただけ。
それでいい。
配達を終え、橋の上で一息つく。
風が、気持ちいい。
「……世界は、ちゃんと回ってる」
自分が何かをしなくても、
人は歩き、笑い、前に進む。
ふと、ステータス画面が開いた。
【レベル:1】
【役割:世界調整補助】
【状態:安定】
変わらない数字。
「……エンディング、来ないなぁ」
ミナは小さく笑った。
世界を救った。
バグの正体も知った。
運営とも向き合った。
普通なら、ここで終わりだ。
でも。
「……私、まだ初心者だし」
学ぶことは山ほどある。
失敗も、これからだ。
空を見上げる。
雲が流れていく。
「……終わりがないなら」
それは、それで悪くない。
誰かの物語を奪わず、
誰かの代わりにならず、
ただ隣を歩く。
最強であることを、振りかざさずに。
ギルドの鐘が鳴る。
新しい一日が始まる合図。
ミナは、歩き出した。
エンディングは、まだ先。
それでも、物語はちゃんと続いている。
――初心者のままで。
完
初心者だった私、ステータスバグで最強になる 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123
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