第19話 最強だけど初心者
ミナは、今日も依頼に失敗していた。
「……あ、薬草、間違えた」
指定された薬草とは違う種類を、堂々と束ねている。
「ミナさん、それ毒草です」
「えっ!?」
慌てて手を放し、地面に落とす。
「……ごめんなさい」
隣で同行していた若手冒険者は、苦笑した。
「本当に初心者ですね……」
「はい……」
戦闘力だけが異常なだけで、
知識も技術も、相変わらず。
次の依頼は、簡単な護衛。
「道中、特に問題は――」
言い終わる前に、遠くで地鳴りがした。
「……出ましたね」
巨大な魔物の気配。
ミナは一歩前に出て、すぐに止まる。
「……大丈夫です。今日は“見てるだけ”なので」
魔物は、ミナの存在を感知した途端、
動きを止め、踵を返した。
「……逃げた?」
「え、なにそれ……」
戦闘、なし。
依頼は、無事完了。
「……何もしてない」
報酬を受け取りながら、ミナは首を傾げた。
帰り道、露店でパンを買う。
「……これ、硬い」
思い切り噛んだ瞬間、パンが粉々になった。
「……また」
店主が慌てる。
「い、いいから! 無償でいいから!」
「え、あ、すみません……」
最強でも、日常は不器用。
宿に戻り、ステータスを確認する。
【レベル:1】
【スキル:初心者の心得】
「……ずっと1のままなんだ」
不思議と、焦りはなかった。
レベルが上がらない代わりに、
周囲が成長していくのを見守れる。
ある日、かつて初心者狩りだった男の噂を聞いた。
「今は、真面目に依頼やってるらしい」
「……よかった」
力でねじ伏せる必要は、なかった。
夜、星を見上げる。
「……最強でも、初心者」
それが、今の自分。
できないことは多い。
間違えることも多い。
それでも。
「……明日も、やれることをやろう」
ミナは、ゆっくりと目を閉じた。
この世界は、まだ続いている。
彼女の物語も、同じように。
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