第18話 新しい仕様

 世界は、少しずつ変わっていった。


 急激な変化ではない。

 だが、確実に“ミナがいること”を前提に動き始めている。


 ギルドの掲示板に、新しい分類が追加された。


【特殊監督依頼】

【立会人指定:ミナ】


「……立会人?」


 ミナは首を傾げる。


 内容は単純だ。

 高難度依頼において、ミナは“戦闘員”ではなく“安全確認役”として同行する。


「直接倒さなくていい……?」


 ギルドマスターが頷く。


「お前がいるだけで、最悪の事態は防げる」


 それは、力を振るわないための仕組みだった。


 運営者は、裏側でさらに手を加えていた。


 ミナが立ち会う依頼では、

 強制的に被害上限が設定される。


【被害制限:発動】

【死亡率:0%】


「……仕様になってる」


 ミナは苦笑した。


 力そのものを消せないなら、

 影響を枠の中に閉じ込める。


 それが“新しい仕様”。


 街の人々も、少しずつ慣れていく。


「ミナがいるなら安心だな」

「でも、任せきりはダメだぞ」


 依存させないための教育も、同時に進められた。


 ミナ自身も、変わっていく。


 無理に隠すのをやめた。

 使わないが、存在は否定しない。


「……いるだけで、役に立つなら」


 それも、選択だ。


 ある日、運営者が再び現れた。


「世界仕様の再構築が完了しました」


「……私のせいで?」


「あなたのおかげで、です」


 珍しく、肯定的な言葉。


「初心者であるあなたが、

 慎重に判断することを前提にした世界です」


 ミナは少し驚いた。


「……私、信用されてます?」


「信頼ではありません」


 運営者は淡々と言う。


「観測結果です」


 その方が、なぜか安心できた。


 ステータス画面に、新しい項目が追加される。


【役割:世界調整補助】

【干渉権限:限定】


「……補助、か」


 主役じゃない。

 最強でもない。


 ただ、暴走を防ぐ“重し”。


 ミナは静かに頷いた。


「……初心者には、ちょうどいいですね」


 世界は、彼女を中心に回るのではない。

 だが、彼女を無視しても回らない。


 それが、新しい仕様だった。

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