第17話 初心者の答え
朝の街は、いつもより静かだった。
災厄の後、人々はまだ現実を噛みしめている。
救われたという事実と、何が起きたのか分からない不安。
ミナは、ギルド前の広場に立っていた。
「……考えた結果です」
集まったのは、ギルドマスターと数人の上級冒険者。
彼らは、慎重な眼差しでミナを見ている。
「私は、全部はできません」
はっきりとした声だった。
「世界のことも、戦争も、全部を救うなんて無理です」
一瞬、ざわつく。
「でも」
ミナは続ける。
「目の前で困ってる人を、見捨てない。
それだけは、やります」
沈黙。
ギルドマスターが、ゆっくりと頷いた。
「……初心者らしい答えだな」
ミナは少し照れた。
「正直、よく分からないままです」
「それでいい」
ギルドマスターは言う。
「分かっていない者ほど、慎重になれる」
その日から、ミナの行動は変わった。
依頼は受ける。
だが、必ず立ち会う人を決め、勝手に片付けない。
魔物が出ても、まず避難を優先する。
必要なら、最後に自分が動く。
「……これで、いいのかな」
不安は消えない。
それでも、一歩ずつ。
ある日、子どもが迷子になったという話を聞いた。
「私、探します」
森の奥で見つけた時、
子どもは泣きながら抱きついてきた。
「ありがとう……!」
ミナは、そっと頭を撫でる。
「……よかった」
力は使っていない。
でも、確かに役に立った。
その夜、ステータス画面に新しい表示が現れた。
【スキル取得:初心者の心得】
【効果:判断補正・微】
「……スキル?」
初めての、正式なスキル。
「……初心者でも、前に進めるんだ」
数値は相変わらず変わらない。
【レベル:1】
それでも、ミナは少しだけ笑った。
最強でも、救世主でもない。
初心者として、できることをする。
それが、彼女の出した答えだった。
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