第13話 暴走イベント

 空が、割れた。


 比喩ではない。

 赤黒く染まった空に、亀裂のような光の線が走り、ゆっくりと広がっていく。


「……なに、あれ」


 街中が騒然とした。


「災厄だ!」

「終盤イベントのはずだろ!?」

「まだ誰も条件満たしてないぞ!」


 空の裂け目から、巨大な影が降りてくる。

 山ほどもある黒い躯体。

 無数の目と、重なり合う翼。


【災厄級ボス:終焉種〈カタストロフ〉】


 街の中央に、強制ウィンドウが表示された。


【イベント難易度:測定不能】

【推奨参加人数:全世界】


「……全世界?」


 ミナは呆然と呟く。


 本来なら、世界の最終盤。

 長い物語の果てに、準備を整えた者たちだけが挑む存在。


 それが、今。


 突然。


「運営……やりすぎだよ」


 だが、返事はない。


 カタストロフが咆哮する。

 音だけで建物が崩れ、人々が吹き飛ばされる。


「逃げて!」


 ミナは叫び、倒れそうな人を支える。

 だが、被害は止まらない。


「……相殺、か」


 世界は、自分という異常を打ち消すために、

 同じくらい異常な存在をぶつけてきた。


 空中に、新たな表示が浮かぶ。


【補正対象:災厄級】

【補正値:上昇】


「……は?」


 カタストロフの周囲で、空間が歪む。

 明らかに、強化されている。


「私がいるから、強くなってる……」


 ミナの足が震える。


 逃げても、意味はない。

 放置すれば、世界が壊れる。


「……やるしか、ないよね」


 ミナは一歩、前に出た。


 誰も期待していない。

 誰も理解していない。


 ただ、初心者が一人、災厄に向かって歩き出す。


 その瞬間、運営からの最後の警告が表示された。


【注意:介入は世界構造に不可逆な影響を与えます】


 ミナは、静かに息を吸った。


「……それでも」


 彼女が立ち止まらなかったことで、

 この世界の“結末”は、大きく書き換えられることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る