第10話 世界のバランス崩壊
街の外では、魔物の群れが防壁に迫っていた。
本来なら、複数の高ランク冒険者と兵士が連携して迎え撃つ規模だ。
「……私が出たら、ダメなんだよね」
分かっている。
自分が介入すれば、すべてが一瞬で終わる。
それでも、悲鳴を聞いてしまった。
ミナは、防壁の上に立った。
「……一発だけ」
誰にも触れず、誰も傷つけず。
そう念じて、地面を軽く踏みしめる。
――――。
音も衝撃もなかった。
ただ、魔物の群れが存在していた“空間”だけが、きれいに消えた。
砂煙が晴れた時、そこには何も残っていない。
「……消えた?」
防壁の上が、沈黙に包まれる。
「魔物が……いない」
「勝った……のか?」
兵士たちは困惑し、冒険者たちは言葉を失う。
それは勝利ではなかった。
戦闘という過程そのものが、消失した。
数日後、異変は広がった。
討伐依頼が消える。
強敵が現れない。
経験値を得る機会が、急激に減少する。
「……世界、止まってない?」
ギルドマスターは頭を抱えていた。
「本来ここで起こるはずのイベントが、発生しない」
街だけではない。
各地で同じ現象が起きているという。
原因は、明白だった。
「……私、やっちゃったんだ」
ミナは俯く。
自分が関わった場所だけ、
“危機”という概念が消えている。
「世界が、私を前提に組み直してる……?」
その夜、ミナの前に、見たことのないウィンドウが開いた。
【世界進行率:エラー】
【補正対象:ミナ】
【再構築を開始します】
「……え?」
空が歪む。
星の配置が、微妙にずれていく。
「ちょっと待って……!」
だが、止まらない。
世界は“最強の初心者”を基準に、
無理やりバランスを取り始めていた。
それは救済か、破壊か。
ミナには、まだ分からない。
ただ一つ確かなのは――
もう、この世界は元には戻れないということだった。
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