第9話 隠そうとする努力
特例冒険者として登録されてから、ミナの生活は一変した。
依頼掲示板の前に立つだけで、周囲の視線が集まる。
「……見ないでほしいな」
ミナは一番端に貼られた、最低報酬の依頼を指さした。
「この、草採取……」
受付は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに頷く。
「承りました」
街の外れで、指定された草を一本ずつ丁寧に摘む。
力を使わない。絶対に。
「これなら、普通だよね……」
だが帰り道、荷馬車がぬかるみにはまって立ち往生しているのを見かけた。
「すみません、手伝ってもらえませんか?」
断る理由もなく、ミナは馬車の後ろに回る。
「……軽く、押すだけ」
――ゴゴゴ。
馬車は勢いよく進み、反対側の壁に突き刺さった。
「……あ」
周囲が静まり返る。
「い、今のは……偶然です!」
誰も信じていない目だった。
別の日。
弱そうな魔物限定の討伐依頼。
「スライムなら大丈夫……」
そっと、そっと触れただけなのに、
スライムは霧散した。
「……力抜いたのに」
討伐証明を持ち帰ると、依頼主が青ざめた。
「一瞬で……?」
ミナは頭を抱える。
「どうして……」
努力すればするほど、結果だけが派手になる。
加減の“基準”が、そもそも存在しない。
宿に戻り、ベッドに倒れ込む。
「……普通って、なに?」
ステータス画面を開く。
【攻撃力:1】
【防御力:1】
数字は嘘をつき続ける。
その下に、小さく文字が浮かんだ。
【抑制機構:未実装】
「……抑えられない、ってこと?」
この力は、スイッチ式じゃない。
常時発動型のバグ。
「……もう、どうしようもない」
その時、窓の外が騒がしくなった。
「魔物の群れだ!」
「街の防壁が――!」
ミナは窓辺に立ち、遠くを見る。
火の手。
悲鳴。
「……関わらないって、決めたのに」
拳を握りしめる。
隠そうとすればするほど、
世界がそれを許さない。
ミナは、静かに扉へ向かった。
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