第8話 ギルド騒動

 翌朝、ミナは覚悟を決めて冒険者ギルドへ向かった。

 噂から逃げ続けても、状況は悪くなるだけだ。


 ギルドの扉を開いた瞬間、空気が変わる。


 ざわり、と視線が集まった。


「……来たぞ」

「本当にあの子か?」


 ミナは視線を気にしないふりをして、受付へ向かう。


「依頼を……」


 言いかけたところで、低い声が割り込んだ。


「待て」


 振り向くと、屈強な男が立っていた。

 胸元の徽章は、Sランク。


「お前が、噂の初心者だな」


「ちが……」


「否定はいらん」


 男は周囲を見渡す。


「このまま放置すれば混乱が広がる。

 ギルドとして、確認させてもらう」


 館内がざわめく。


「模擬戦だ。危険はない」


 ミナの喉が鳴る。


「……嫌です」


 即答だった。


 だが男は首を振る。


「拒否はできない。

 お前の存在自体が、もう問題なんだ」


 模擬戦場に移され、結界が張られる。

 観客席には冒険者たちが詰めかけていた。


「相手は俺だ」


 Sランク冒険者が剣を構える。


「……加減、してください」


 ミナの声は震えていた。


「それは、こちらの台詞だ」


 開始の合図。


 男が一瞬で距離を詰め、剣を振る。


 ――ガンッ。


 剣は、ミナの肩で止まった。

 刃が砕け、金属音が響く。


「……な」


 次の瞬間、ミナが一歩踏み出す。


 触れただけ。

 それだけで、男の体が結界の端まで吹き飛ばされた。


 沈黙。


 誰一人、声を出せない。


 結界が解除され、ギルドマスターがゆっくり立ち上がった。


「……確認できた」


 重い声が響く。


「この者は、測定不能。

 だが敵意はない」


 ミナは深く頭を下げた。


「……迷惑をかけたくありません」


 ギルドマスターはしばらく考え込み、告げる。


「ならば条件付きで認めよう。

 お前は“特例冒険者”だ」


「特例……?」


「ランクは表記しない。

 依頼も制限付きだ」


 ざわめきが起きる。


 ミナは戸惑いながらも頷いた。


 これで、少しは平穏になる――

 そう思った。


 だが、ギルドという“公式の場”で示された実力は、

 彼女をさらに逃げられない存在にしてしまった。

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