第7話 自覚なき最強
街に入ったミナは、できるだけ目立たないようフードを深くかぶって歩いていた。
初心者狩りの件が、もう誰かに見られていた気がして落ち着かない。
「……静かすぎない?」
昼間のはずなのに、通りの人々の視線が微妙にこちらを避けている。
ひそひそとした声が、背後で交わされる。
「……あの子らしいぞ」
「嘘だろ、あんな細いのが」
胸がきゅっと縮む。
「ちがう、私じゃない……たぶん」
宿屋に逃げ込むように入り、受付で最低ランクの部屋を頼んだ。
「一泊、銅貨一枚で」
受付の女性が一瞬だけミナの顔を見つめ、すぐに視線を逸らす。
「……ごゆっくり」
部屋に入って、ベッドに腰を下ろす。
ようやく一人になれた。
「……最強とか、ありえない」
自分は今も初心者だ。
操作も下手で、知識も足りない。
ただ、バグがあるだけ。
その時、ドアがノックされた。
「……はい?」
現れたのは、銀色の鎧を着た女性冒険者だった。
胸元には、Sランクを示す徽章。
「あなた、ミナね」
「えっ……」
否定する前に、視線が合う。
「初心者狩り三人を一瞬で倒したって噂。
それと、洞窟の大型ゴブリンを消したのもあなたでしょう」
「ち、違います! 私は……」
「自覚がないのね」
女性は小さく笑った。
「安心しなさい。私はあなたを捕まえに来たわけじゃない」
彼女は椅子に腰掛け、真剣な目で続ける。
「この街ではもう話題よ。
“表示は最弱、実力は測定不能”の謎の初心者」
「……やめてください」
ミナは俯いた。
「私はただ、生きてたいだけで……」
しばらく沈黙が落ちる。
「……なら、忠告だけ」
女性冒険者は立ち上がる。
「その力、隠すつもりなら覚悟しなさい。
無自覚が一番危険よ」
ドアが閉まり、再び静寂。
ミナは震える指でステータスを開く。
【レベル:1】
【攻撃力:1】
数字は変わらない。
「……最強なんかじゃない」
そう呟きながらも、
世界が自分を“そう扱い始めている”ことだけは、はっきりと感じていた。
自覚なき最強。
それは、逃げ場のない称号だった。
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