第6話 初心者狩り返し

 洞窟を出たミナは、街へと続く道を歩いていた。

 人目につかないよう力を抑える――そう決めたばかりだ。


 だが、この世界は初心者に優しくない。


「お、いたいた。ひとりじゃん」


 背後から、軽い調子の声がかかる。

 振り向くと、三人組の冒険者が立っていた。装備はそこそこ整っている。


「レベルいくつ?」

「見た感じ、始めたばっかだろ」


 嫌な予感がする。

 ゲームで見たことのある光景――いわゆる初心者狩り。


「……用、ありますか?」


 できるだけ刺激しないように答えるが、男たちはにやにやと笑った。


「金とか装備、ちょっと分けてもらおうぜ」

「拒否権はないけどな」


 逃げようと一歩下がった瞬間、背中を掴まれる。


「離して――」


 反射的に腕を振り払った。


 ――バンッ。


 掴んでいた男が、地面を跳ねるように転がっていく。


「は?」


 空気が凍りつく。


「今の……何だ?」

「こいつ、初心者じゃ……」


 残りの二人が剣を抜く。


「ふざけんな、バグ利用か?」


 剣が振り下ろされる。

 ミナは避けようともせず、咄嗟に腕で受けた。


 ――キン。


 剣が弾かれ、刃こぼれする。


「……え?」


 驚いたのは、全員だった。


「ちがう! わざとじゃ……!」


 ミナは慌てて距離を取ろうとする。

 だが、男たちは恐怖と怒りで後退できない。


「囲め!」

「殺せ!」


 飛びかかってきた瞬間、ミナの中で何かが切れた。


「……来ないでって、言ったのに」


 地面を踏みしめただけ。

 それだけで衝撃波が走る。


 三人の冒険者はまとめて吹き飛び、街道脇の茂みに転がった。


 しばらくして、誰も動かないのを確認する。


「……生きてる、よね?」


 恐る恐る近づくと、全員気絶しているだけだった。


 ミナは深く息を吐いた。


「……やっぱり、人相手はダメだ」


 強すぎる。

 抑えたつもりでも、加減が分からない。


 その時、遠くから別の冒険者の声が聞こえた。


「おい、今の音――」


 ミナは即座に身を翻し、森の方へ走り出す。


「……見られたら、終わりだ」


 初心者を狩る側だった者たちが、

 逆に“狩られた”という事実。


 それはすぐに、噂として広がっていく。


 ――表示は最弱。

 ――だが、初心者狩りすら成立しない異常存在。


 ミナはまだ知らない。

 この出来事が、彼女の名を裏の世界に刻み始めたことを。

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