第2話 若紫はドブネズミ?
第2話
若紫はドブネズミ?
「――よし」
朝の廊下。
ワックスの匂いと、少し湿ったコンクリートの冷気。
俺は胸を張った。
「今日は、若紫を迎えに行く日だ」
自分で言って、少しだけ気分が上がる。
「……いや、正確にはエレンだが」
前世の記憶が、耳元で囁く。
――恋は、距離で決まる。
――近づけ。囁け。相手の世界を奪え。
「簡単だ」
俺は、ロッカー前で立ち止まっているエレンを見つけた。
赤いマフラー。
少し猫背。
朝の冷たい空気で、鼻の頭がほんのり赤い。
「……若紫」
思わず呟く。
「……あの頃より、ずっと元気そうだ」
深呼吸。
前世ムーブ、解禁。
「おはよう、エレン」
低めの声。
角度三十度の微笑み。
日光を背にする完璧な立ち位置。
エレンが振り返る。
「……ヒカルさま?」
「昨夜は、よく眠れた?」
「……え?」
首を傾げる。
「寒かっただろう。
夢に、雪は降らなかった?」
一瞬の沈黙。
「……あの」
エレンが一歩下がる。
「……距離、近くないですか?」
「近い?」
俺は内心で首を傾げた。
「……近いから、いいのだが?」
その瞬間。
「……え?」
エレンの目が、警戒色に変わる。
「えっと……
ヒカルさま、今日、何か変です」
「変?」
「……なんというか」
エレンは、言葉を探すように視線を泳がせた。
「……妙に、ねっとりしてます」
「………………は?」
胸の奥で、何かがひび割れる音がした。
「……ね、っとり?」
「はい」
はっきり言うな。
「視線とか、声とか……
なんかこう……」
エレンは、自分の腕をさすった。
「……鳥肌、立ちます」
「…………」
俺の完璧な微笑みが、固まる。
「……待て」
内心で叫ぶ。
「前世では、
これで百人落ちたぞ?」
「ヒカルさま」
エレンが、さらに距離を取る。
「私、そういうの、苦手です」
「……そういうの?」
「距離感が、おかしい人」
心臓に、直撃。
「……俺の距離感は、
千年前からこの仕様だが?」
口に出さなかった自分を褒めたい。
「それに」
エレンが、少しだけ語気を強める。
「初対面みたいな顔で、
急に恋人みたいなこと言われても……」
「……恋人?」
「そうです」
きっぱり。
「正直……」
一瞬、間。
「……キモいです」
――ガラガラガラ。
自尊心が、音を立てて崩壊。
「……キ」
喉が詰まる。
「……キモ……?」
前世の俺が、遠くで絶句している。
――そんな言葉、存在しなかった。
「……えっと」
エレンは、申し訳なさそうに目を伏せた。
「意地悪で言ってるわけじゃないんです。
でも……」
顔を上げる。
「ヒカルさま、
たまに……ドブネズミみたいです」
「………………」
「暗いところから、
ぬるっと出てきて、
距離を詰めてくる感じ」
完全KO。
「……若紫は?」
思わず、口をついて出る。
「……え?」
「若紫は……
そういうの、嫌じゃなかったが……」
エレンが、首を傾げる。
「……誰ですか、それ」
「あ」
詰んだ。
「……昔の知り合いだ」
「ふーん」
エレンは、腕を組む。
「その人と私は、
別人です」
はっきり。
「私は、
ちゃんと段階を踏む人が好きです」
「……段階」
「はい」
一歩下がり、間合いを取る。
「挨拶。
雑談。
信頼。
それから、やっと好意」
俺は、完全に理解した。
「……この世界」
喉が、ひくりと鳴る。
「……難易度、高すぎないか?」
エレンは、くすっと笑った。
「普通ですよ」
その笑顔が、逆に刺さる。
「ヒカルさまは、
顔はすごく綺麗ですけど」
「……だが?」
「それだけで許される時代は、
終わったんだと思います」
胸の奥で、何かが終わった音。
チャイムが鳴る。
金属的な音が、やけに冷たい。
「……じゃあ」
エレンは、教室へ向かう。
「今日は、その……
普通に話しましょう」
振り返って、付け足す。
「……三歩くらい、離れて」
「………………了解」
その背中を見送りながら、
俺は廊下に立ち尽くした。
「……前世」
天井を仰ぐ。
「……お前のやり方、
完全に時代遅れだ」
胸に手を当てる。
美貌が、効かない。
これが、こんなに怖いとは。
「……これは」
乾いた笑いが出る。
「……本格的に、
人生、やり直しだな」
遠くで、
アリスのヒールの音が近づいてくる。
「……次は、
どんな地雷だ?」
俺は、深く息を吸った。
――第2話、終了。
悪役令息・光源氏がやってきた!キャッチコピー
いいね、これは作品の顔になるやつ。
トーン別に出すね。使い分けできるように。
王道・一行で刺す系
「顔だけでは、生き残れない時代が来た。」
前世・光源氏。今世・悪役令息。借金・2億円。
美貌チート、現代で無効化。
モテてたのは、前世だけ。
ラブコメ全振り系
「口説いた瞬間、キモいと言われた。」
二股どころか、人生が詰んでいる。
乙女ゲーム世界で、恋も借金も炎上中。
モテすぎ貴族、現代ではただの変態。
現代×前世ギャップ強調系
平安の恋愛術、現代では犯罪未満。
和歌は詠めるが、ローンは払えない。
月は口説けた。銀行は無理だった。
前世チート、今世で大炎上。
哀愁・文学寄り(あなた向け)
美しさが、罰になる時代へ。
愛され慣れた男が、拒絶を学ぶ物語。
光は消えない。ただ、場所が違っただけ。
誰のものにもならない顔を、持って生まれた。
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