第30話 初めての実戦連携

夜の森は、張り詰めた空気で覆われていた。

 風に揺れる枝葉の音さえ、異常に大きく聞こえる。

 住人たちは焚き火の周囲に集まり、互いに目を合わせる。

 今夜、北方連邦との協力で、初めて実戦的な対応を行うのだ。


 「報告です」

 若い兵士の声が震える。

 森の東側で、王国の小隊が境界内に侵入した形跡が確認されたという。

 足跡、折れた枝、少し乱れた草の跡――すべてが意図的な侵入を示していた。


 私は深く息を吸い、住人たちに呼びかける。


「恐れるな。今夜は、北方連邦との連携を試すときだ」


 森の奥から、リオン率いる北方連邦の小隊が現れる。

 軽装ながらも緊張感のある動き。

 焚き火の光に照らされ、彼らの装備が鋭く輝く。


 「我々は援護に来た」

 リオンの声が森に響く。「境界の結束を守るため、指示に従います」


 私は手を上げ、指示を出す。


「各班はペアを組み、侵入者の追跡と封鎖を行う」

 若い兵士たちは息を整え、影の中に身を潜める。

 北方連邦の兵も、森の地形に合わせて素早く移動する。


 最初の接触は小規模だった。

 王国の小隊は偵察が目的で、戦闘を避ける動きだ。

 それでも、境界の兵たちは互いに目配せをし、合図で動く。

 緊張感が一瞬の沈黙を作る。


 「左手に気配!」

 私の声で住人たちは反応する。

 影の中で小さく動く足音を捕らえ、北方連邦の兵が挟み込む。


 侵入者は逃げようとするが、森の中で追い詰められ、最終的に包囲される。

 大声を出すことなく、静かに拘束される様子は、両勢力の連携が完璧に機能している証だった。


 住人たちは息を整え、互いの目を確認する。

 小さな成功だが、今まで積み重ねた合同訓練の成果が初めて試される瞬間だ。


 セラが横で微笑む。


「これが、信頼の力ね」

 私も頷く。「疑念ではなく、協力で対応できる」


 森の中、拘束した侵入者を囲み、情報を確認する。

 王国の小隊は、心理的圧力を加えるための監視役だったことが分かる。

 だが、境界と北方連邦の連携で、その意図は完全に防がれた。


 夜明け前、住人たちは森を巡回し、警戒体制を整える。

 森の影は深いが、心の中の恐怖は軽減されていた。

 互いを信じ、外部と協力する力が、初めて実戦で証明されたのだ。


 焚き火の前で、私は住人たちに告げる。


「王国の策略は続く。だが、今夜、私たちは初めて抵抗に成功した」

 深く息を吸う。「信頼と協力こそが、最強の防御であることを証明したのだ」


 住人たちは互いに笑みを交わす。

 小さな達成感と共に、これからの戦いへの自信が芽生える。


 リオンも静かに頷く。


「境界の結束は、想像以上に強い」

 彼の目に、尊敬と安堵が混じる。

 北方連邦と境界の協力は、単なる情報交換ではなく、実戦で効果を発揮する段階に入ったのだ。


 森の霧が徐々に晴れる中、焚き火の炎は力強く揺れる。

 住人たちは今夜、初めて外の世界との連携で成功を体感した。

 王国の圧力も、これからは簡単には通用しない。


 私は星空を見上げる。

 北方連邦との連携、住人たちの結束、そして実戦で得た経験――

 すべてが境界の未来を支える力になる。


 森の影は深いが、境界の灯は消えていない。

 小さな刃や策略も、揺るがぬ結束の前には無力だ。


 夜明け、森の中で住人たちは静かに息を整え、焚き火の炎は最後まで揺れながらも消えなかった。

 境界は、初めて外部の協力で自らを守る力を手に入れたのだ。

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2025年12月21日 08:00
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婚約破棄された悪役令嬢は追放された ――それは国が私を恐れたからです @Aihon

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