第15話 王国の介入

朝の森は冷え込み、霧がゆっくりと立ち込めていた。境界の住人たちは、昨日の小規模な衝突から学んだ教訓を胸に、普段よりも慎重に朝の準備を進めていた。焚き火の炎が白い霧に揺らぎ、薄暗い森に不思議な光景を作り出している。


 「本格的に来る」

 セラが低く、しかし明確な声で告げた。

 私はその言葉を聞き、胸の奥が引き締まるのを感じた。王国は、もはや偵察隊ではなく、直接的な圧力をかけてくる決意を固めたのだ。規模は数十、いや百を超えるかもしれない。彼らは、境界を小規模な組織として軽く見ていた過去の判断を撤回し、全力で制圧するつもりである。


 住人たちも、その覚悟を胸に抱いている。森の中、各自が戦闘の準備を整え、装備を確認し、互いの位置を再確認する。小規模な村でありながら、結束は強い。私たちの信頼と判断力が、ここでの唯一の防衛策だ。


 「今回は攻撃も想定する。侵入を許すな」

 私は声を低く、しかしはっきりと発した。

 住人たちは一斉に頷く。今日の戦いは、単なる防衛ではなく、境界そのものの存続をかけた戦いになる。


 森の奥から、王国軍の大規模な部隊が姿を現す。騎馬兵、歩兵、そして装備を整えた精鋭たち。彼らは昨日の偵察隊よりも遥かに多く、戦術的な連携も完璧だ。森の木々を利用した私たちの罠がどこまで通用するかは未知数だが、恐れることはない。


 「東側に伏兵を配置。西側には弓隊を待機させろ」

 私は指示を出しながら、森の地形を最大限に活かす作戦を頭の中で整理する。

 エドガル、セラ、そして有志たちが即座に動く。小道や茂みを利用して偵察隊を誘導し、王国の部隊の進行を遅らせるのだ。


 騎馬隊が森の中に足を踏み入れた瞬間、隠された罠が作動する。倒木や小規模な障害物が進路を遮り、馬の足を止める。歩兵たちは慎重になり、攻撃の隙を探すが、森の中での動きは制限される。


 私は冷静に観察しながら、必要に応じて指示を出す。「弓隊、左翼の騎馬を誘導する。圧力をかけつつ、衝突を避ける」

 住人たちは巧妙に森の地形を利用し、戦闘力の劣る私たちの不利を最小限にする。力だけでなく、判断力と信頼が武器だ。


 しかし王国も無策ではない。歩兵隊が慎重に罠を回避し、騎馬隊は森の開けた場所に出て攻勢をかけようとする。小さな衝突が森の中で始まり、緊張は一気に高まる。矢が飛び、木の枝が折れる音が森に響く。


 「衝突は最小限だ。必要なら迎撃する」

 私は低く、冷静に指示を出す。住人たちは緊張しながらも、指示通りに行動する。

 彼らは力だけではなく、判断力と連携を学んだ。だからこそ、混乱せずに動けるのだ。


 昼を過ぎても戦いは続く。王国の部隊は、徐々に森の奥深くまで進行するが、私たちは巧妙に誘導し、消耗させる。森の罠と地形、そして住人たちの統率が、王国の戦力に小さな打撃を与えている。


 夕刻、戦闘は一時的な膠着状態に入った。王国の兵士たちは疲労と混乱により進行を停止し、境界の住人たちも息を整える。

 森の中、焚き火の炎が小さく揺れる。傷ついた者もいるが、大きな損失はなく、私たちは小さな勝利を手にした。


 「よくやった」

 セラが私に微笑む。住人たちも安堵の表情を見せ、焚き火を囲む。戦いは終わっていない。しかし、ここで築いた結束と信頼が、私たちを守ったのだ。


 私は森を見つめ、心の中で決意を新たにする。

 王国は、間違いなく次の手を打つだろう。私たちの存在は脅威として認識され、圧力はさらに強まる。だが、境界で築いた信頼と居場所は、決して簡単には崩されない。


 月明かりが森を照らす中、私は静かに誓った。

 ここで得た居場所と信頼を守るため、私はどんな困難にも立ち向かう。王国の力がいかに強大でも、私たちの意志と結束があれば、まだ未来は切り開ける――そう信じながら、夜の森に耳を傾けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る