第14話 境界の戦い
朝の霧が森を包み、鳥の鳴き声さえも押し殺されたかのように静まり返っていた。境界の住人たちは、いつも通りの朝を迎えようとしているが、その空気には緊張が漂っていた。昨夜の偵察隊の動きが、彼らの意識に強く刻まれている。
私は焚き火のそばに立ち、住人たちを見渡す。
「今日は、戦いではなく防衛を最優先する。無駄な衝突は避けるが、侵入を許すことはできない」
声は低く、しかし力強く、住人たちは一斉に頷いた。信頼と結束がここにあることを、互いに確認するかのようだった。
森の奥、王国の前哨隊が姿を現す。鎧に身を包んだ兵士たちは、慎重に歩を進める。目つきは鋭く、しかし緊張が見て取れる。ここは未知の領域。森の奥に潜む小さな集落の存在が、彼らにとって不確定要素だ。
「罠の位置は確認済みか?」
私はエドガルに確認する。
彼はうなずき、森の東側に設置した簡易の仕掛けを指差す。「敵の進行を遅らせるには十分だ」
住人たちは森の茂みや岩陰に散らばり、息をひそめる。武器は構えているが、決して先に攻撃することはない。目的は、侵入を阻止しつつ、相手の戦力を把握することだ。
偵察隊が森の奥に足を踏み入れると、罠が静かに作動する。枝や落石、隠された障害物――小さな抵抗でも、王国の兵士たちの動きを遅らせるには十分だった。
敵の動きが鈍くなるのを見て、私は低く指示を出す。「動きを観察し、隙があれば排除する。だが慎重に」
戦闘は一瞬の緊張で満ちる。森の中での静かな駆け引きは、互いの心理戦でもあった。兵士たちは罠の存在に気づき、警戒を強める。私たちは攻撃せず、森と心理を利用して圧力をかける。力で威圧するのではなく、知恵と判断で相手を制御するのだ。
数時間が経過し、偵察隊は徐々に森の奥へと進むが、その進行は極めて遅い。小さな罠や巧妙な配置により、彼らは慎重にならざるを得なかった。住人たちも冷静に行動し、敵の動きを正確に観察して報告する。
「偵察隊は全体像を把握できないようだ」
セラが低くつぶやく。彼女の目は鋭く、森の中で微細な動きも見逃さない。
「これで、私たちの優位は保たれる。だが、本戦はまだ始まったばかりよ」
その時、森の奥から突然、矢が飛んできた。小規模な衝突の兆しだ。住人たちは即座に身を低くし、矢の軌道を読みながら安全な位置へ移動する。王国の兵士たちも、森の障害物や不意な攻撃に警戒を強める。
私は深呼吸をして指示を出す。「反撃は最小限に。侵入を阻止するために圧力を維持しつつ、敵を誘導する」
住人たちは一致団結して行動する。森を知り尽くした私たちの戦術は、王国の兵士たちの圧倒的装備と戦力を補う。
日が高くなるにつれ、偵察隊は進行を諦め、撤退の兆しを見せ始めた。森の罠や予期せぬ障害、住人たちの巧妙な対応により、王国の兵士たちは目的を達成できずに後退せざるを得なかった。
森が静まり返ると、住人たちはゆっくりと姿を現す。疲労はあるが、安堵の色も混じる。小さな勝利ではあるが、信頼と結束の成果だ。
焚き火の前に座ると、セラが私に言った。「今日の防衛は完璧だった。攻撃せずに圧力だけで敵を撤退させるなんて……あなたは本当に指導力を持っている」
私は焚き火の炎を見つめ、静かに答える。「力は最後の手段よ。信頼と判断こそ、戦いで最も強い武器になる」
森の中に揺れる炎の影は、私たちの団結を映し出す。
王国の視線はすでに私たちに注がれている。平和な日常は一瞬で終わるかもしれない。
だが、ここで築いた信頼と絆がある限り、私は恐れない。境界で得た居場所を守るため、私たちは戦い続ける――たとえ相手が王国であろうと。
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