第5話
森の奥深くに進む途中、柚葉はふと足を止めた。木漏れ日が揺らめき、静寂の中に鳥のさえずりが響いている。
「蓮…」柚葉は少し恥ずかしそうに顔を伏せながら、心の中で何かを決めた。
蓮は、そんな彼女の態度に気づき、立ち止まった。
「どうした?」と、静かに尋ねる蓮。
柚葉は少しだけためらいながらも、ゆっくりと口を開いた。
「実は…私、蓮のこと…少し気になってる。だけど、今はそれどころじゃなくて…」
蓮は驚いた表情を見せたが、すぐに優しく微笑みながら答えた。
「俺も、お前のことを気にかけている。でも、今は真実を見つけることが一番だから…」
その瞬間、二人の距離が自然と近づき、ほんのわずかに手と手が触れ合った。
「ごめん、ちょっとだけ…勇気を出しただけだ」柚葉は照れくさそうに笑った。
「気持ちは伝わった。俺も、お前のこと……」蓮は静かに言葉を濁しながらも、目を見つめた。
その時、遠くから誰かの声が聞こえた。
「柚葉!蓮!」海斗の声だった。
二人は慌てて顔を離し、森から姿を隠した。
「遅かったな、二人とも」海斗は苦笑いを浮かべながら近づいた。
「すまない、ちょっと二人きりになりたくて…」柚葉は照れ隠しに笑った。
海斗は少しだけ寂しそうな表情を浮かべながらも、「わかってる。でも、俺もこうしてお前たちと一緒に真実を追いかけたい」と言った。
その夜、三人は集まった場所で、森の奥に隠された秘密と心の距離を少しだけ縮めながら、次の一歩を踏み出した。
「この先、何が待っていても、俺たちは一緒だ」蓮は静かに誓った。
「うん…私もそう思う」柚葉は蓮の瞳を見つめながら、心の中で新たな決意を抱いた。
夜空には星が輝き、彼らの未来に新たな光が差し込もうとしていた。
森の奥から帰還した夜、三人は静かな場所に集まった。星空の下、風が優しく揺らす木々のざわめきに耳を傾けながら、これからの行動計画を練った。
「兄貴が残した地図と証拠は、まだまだ少ししか手に入っていない」蓮が言った。「この先に隠された真実を解き明かすには、あの森の奥にある“秘密の扉”を開ける必要がある。」
柚葉は、目の前の蓮の横顔を見つめながら、内心で葛藤していた。彼女の胸の奥には、蓮への微かな恋心が芽生え始めていたのだ。
「あの扉を開けるためには、何か特別なものが必要なの?」と、少しだけ声を震わせて尋ねる。
「そうだ。兄貴の残したメモには、『心の鍵』が必要だと書かれていた」と、蓮は真剣に答えた。
海斗はその話に頷きながら、「じゃあ、俺たちの心の中にあるものも使えるのか?」と冗談を交えた。
柚葉はふと自分の心の中に何かを探した。自分の中にある勇気や信じる気持ち、それが“鍵”になるのかもしれない、と感じた。
その瞬間、彼らの前に、突然、不思議な光の粒子が舞い降りた。まるで、何かの啓示のようだった。
「これが…」柚葉は声を絞り出した。
光の粒子は、やがて一つの形を成し、透明な宝石のような輝きになった。それは、兄貴が隠した秘密の扉を開く“心の鍵”のようだった。
「これ…」海斗が手に取りながら、微笑んだ。「やっと見つけたぞ、この瞬間を待ってた。」
蓮は静かに微笑み、「さあ、行こう。今こそ、真実と向き合う時だ」と言った。
その夜、彼らは決意を胸に、森の奥の秘密の扉へと向かって歩き出した。扉の前には、もう一度自分たちの心を試す試練が待ち受けている。
しかし、その中には、恋の芽も静かに育ち始めていた。
柚葉は蓮の手をそっと握り、心の中で誓った。
「私は…あなたと一緒に、真実をつかみ取る。」
蓮は微笑み返し、そのまま扉に手をかけた。
扉がゆっくりと開き、暗闇の向こう側に、待ち受ける新たな謎と、二人の確かな絆が静かに輝き始めた。
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