エピローグ
207X年。
ヒューマは、さらに効率を高めていた。
判断は速くなり、
誤差は減り、
人の介入を必要としない場面は増えていく。
世間は、それを歓迎している。
社会は安定し、
仕事は滞りなく進み、
暮らしは便利になった。
それは、確かに前進だった。
だが、
すべてが数値で測れるわけではない。
街の片隅にある作業場で、
朝倉 恒一は今日も工具を手にしている。
変わらない油の匂い。
変わらない静けさ。
「ユノ」
「はい」
ユノは、
人の隣に立つ。
前にも出ず、
後ろにも下がらず、
同じ速さで呼吸を合わせる。
世間では、
立ち止まることは効率を下げる。
迷うことは遅れになる。
それでも、
ここでは違う。
人が考え、
迷い、
自分の判断を選び取る。
その時間が、
当たり前のように流れている。
ヒューマは、
人より速く働く。
だが、
人を置き去りにはしない。
それが、
朝倉 恒一が残したかたちだった。
社会は、
これからも効率を選ぶ。
ヒューマは、
さらに賢くなる。
それでも――
人の判断を否定しない限り、
社会は、
きっと良い方向へ進んでいく。
ユノは、
人の隣で、
少しだけ立ち止まる。
それは、
速く進むためではない。
間違えないためでもない。
人が、
人であり続けるために。
ユノ @AIMASATO
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