第3話 妖精さんにご飯を作る。
やれば出来るもんだ。
俺は誰もほめてくれないだろうから、自分でほめた。そんなドラッグストアの帰り道。高熱には水分補給。そこはスポーツドリンクで。たぶん、食欲もないはず。今朝のコンビニでもカロリー補助食品を買うだけだった。なので食べやすく、のど越しがいいゼリーを数点。高熱なので頭を冷やす枕と、おでこに貼る熱を冷ますシート。我ながら大したもんだ。そう、今は彼女のなんちゃって弟なんだから。
上機嫌で部屋に戻るが彼女、片倉律子は寝たまま。それは仕方ない。幸い既に冷えてる頭を冷やす枕が売っていたので、タオルを巻いて頭の下に敷いてあげた。すると一瞬目を開けたので、カギは見つかったから安心してとだけ伝えた。安心したからかどうかわからないが、すぐに目を閉じた。
ベッドの下には着替えられた制服が脱いだまま置かれていた。高熱なので仕方ないが、脱ぎ散らかされた女子の制服はすごく精神をざわめかす。妖精さんの制服。だから俺は見ないふりでハンガーに掛けた。
おでこにも熱を吸い取るシートを貼り、いま彼女に出来ることはひと通り済ませた。
彼女は寝てるし、俺も制服を着替えたい。今朝脱いだ形のままのスウェットを拾い集め、隣の部屋で着替えた。これで本格的に出来ることはなくなった。どうしようかと思ってる時、声がした。
「どうかしましたか?」
「古石くん。お姉ちゃんに敬語は禁止です……」
ん……まだアレ続いてるのか。病院の受付のお姉さんの言葉「弟さんがいて安心ね」という勘違い。なんで弟なんだろう、兄でもよさそうな気がするが……
「えっと……」
それやめませんか、そう言おうとしたのだが片倉律子は、力を振りしぼって布団から手を出した。その差し出すように。
「あの……片倉さん?」
「古石くん。お姉ちゃん、頭クラクラしてます。手を握って欲しいです。どっか行っちゃわないようにです」
「手……ですか」
「はい。それと敬語……」
禁止です。消え入りそうな声。だから反論も抵抗も出来ない。妖精さんの手を握る。本当ならノドから手が出るようなイベントだけど、俺の平穏な生活には必要ない。必要ないが弱ってる女の子のたのみを断るのも、心の平穏が遠のく。しかたない、思いで作りだと思って握った手。
「片倉さん、すごい熱です……」
「はい……なんか……目が回ってます」
「水とスポドリ、あとお茶があります、おすすめはスポドリです。水分取らないと」
「では古石くんおすすめのスポドリで」
ペットボトル入りのスポドリ。でも、ペットボトルって病人には飲みにくいかも。俺は以前コンビニで貰って使ってない、ストローをペットボトルの口に差し込み、片倉さんの身体を支えながら飲ませた。きれいなくちびるが熱のせいでカサついてた。さっき、のど飴を取り出すために開けた彼女のカバン。内側のポケットに確かリップクリームがあった。
「意外です……古石くんは女子力が高いですね」
取り出したリップクリームを、無断で彼女のカサついたくちびるに塗った時に言われた。
「うまく塗れた自信はないよ、のど飴は?」
「欲しいです、こんな優しい弟が」
俺はのど飴を彼女の口に入れながら答えた。
「じゃあ、片倉さんの熱が下がるまでは弟しますよ」
「それは……すごく、心強いです」
目を閉じた彼女の呼吸は苦しそう。
「熱、測りましょう」
体温計を彼女の脇にさそうか迷ったけど、あまりにぐったりしてるので、俺の平穏を気にしてる場合ではない。
「38・9です。病院で出された解熱剤飲みましょうか」
「はい……迷惑かけて……」
彼女の熱で潤んだ目で、ごめんなさいと続きそうな言葉を俺はさえぎり
「熱が下がるまでは弟なんで」
そう言って頭を撫でた。不思議と片倉さんはそっと目を閉じた、安心したのかも知れない。こういうのは慣れてない。だからこれが正解かどうかなんてわからない。
「少し寝ましょう。ずっとそばにいますから、安心して」
「うん……」
彼女が眠りに落ちた頃、俺はようやく日常を思い出した。学校への連絡を忘れていた。お昼なんてとっくの昔。スマホを取り出し担任に今日の事、片倉さんがインフルで今朝病院に連れて行ったこと、マンションが隣なので看病していることなど、調べればわかる事実を説明した。
幸い、片倉さんは品行方正だし、俺は波風立てないような学園生活を送っていたので、すぐに信用された。彼女がひとり暮らしなのも知っているようで、熱が下がるまで、俺も看病で休みたいという希望もあっけなく受け入れられた。部屋に戻ると片倉さんは熱っぽい目で俺を見ていた。
「ごめん、起こした。学校に連絡忘れてて」
「こちらこそ迷惑ばっかりで……」
こういう会話は得意じゃない。はぐらかすのが正解かもわからないけど、今は熱を下げないと。
「いいよ、それより寒気とかしない?」
「少しします」
「じゃあ、毛布足そうか。あっ、ちゃんと洗ってるから――ってもういいか」
ほんの少しおどけてみると、彼女はクスッと笑った。そう言えば片倉さんが笑ってるのはあまり見たことがない。クラスで見せる笑顔はどちらかというと、表向きな笑顔に見えた。
「おかゆ作ります。少し食べた方がいいです、卵アレルギーとかない?」
「はい……でも」
「でも?」
キッチンに向かおうとした足を止めた。布団からちょこんと頭だけ出す片倉さん。遠慮しながら言った。
「その……古石くんはお料理出来るのですか?」
おかゆを料理と呼ぶかは別として、部屋のおかたづけ出来ない俺だけど、料理は好きだった。
「出来たら起こします。それまで寝てて」
コクリと目だけでうなづく彼女は、確かに妖精さんのように
【作者より】
需要調査のための試みの投稿です。
3話投稿し需要見込みがあるようなら、続きを執筆します。
目安は3話☆50個です。達成しないようなら3話打ち切りです。
達成しましたら4話目を12月29日より投稿します。週5話ペースとなります。よろしくお願いします。
次の更新予定
2025年12月27日 07:17
弱ったお隣の妖精さんを助けたら、なつかれました。 アサガキタ @sazanami023
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