第2話
入学式の時、その子を見た時からずっと、気になってた。
鮮やかな黒色でうねりのない長髪。
周りの子とは何か違う澄んだ瞳。
大股で堂々としている歩き方。
自分の脳が侵食されていくようだった。
ずっと話しかけたかった。
何の動物が好き?
どういう音楽を聴くの?
好きなタイプは?
家で何してるの?
得意な教科とかある?
苦手な食べ物とかは?
生きてきて、今まで会ってきた人の中で一番、その子を愛したかったし、愛されたかった。
「ねぇ、名前なんていうの?あたしは日向っていうんだ!よろしくね。」
ちょっと声大きかったかな。
しつこいと思われるかな。
話しかけてくれて嬉しいって、思ってくれるかな。
「あ…日向さん…ですか?私は葵です。よろしくお願いします。」
ちょっと戸惑ってるかな。
やっぱり声大きかったかな。
敬語使うんだ。かっこいいな。
何から聞こうかな。
「あ…あたし、数学、苦手なんだ!葵は得意な教科とか…ある?」
いきなり呼び捨てにしちゃった。
嫌だって思われちゃったかな。
近くで見ても、髪綺麗だなぁ。
お人形さんみたいだな。
「得意な教科は分かりませんが、国語が苦手ですかね。」
国語苦手なんだ。
あたし得意だから、教えてあげたいな。 葵もあたしに色々教えて欲しいな。
次は何聞こう。
「そうなんだ!じゃああたし国語得意だし、教えてあげるよ!その代わり葵もあたしに数学教えてね!」
そうやって最初に会った葵は、いつでも冷静で、ちょっと冷たいところもあるけど、丁寧にあたしと話してくれた。
こういうのが良かった。
色んな才能を持って生まれて、
「将来有望ね。」 とか 「日向ちゃんはなんでもできるんだね!」 とか 「奇跡の子が生まれたぞ!」 とか。
期待されて期待されて、ちょっと悪いことが起きた時は
「お前は本気を出せば出来るんだから、ちゃんと頑張りなさい。」
って。
あたしは体力がなかった。
走るのが苦手で、『疲れた』ってすぐ言っちゃう。
それでまた、言わなくても良いことを親に言わせちゃう。
あたしは今が良ければそれで良かった。
未来のこととか、過去とか全然考えたこともなかったし、考えたくも無かった。
親が褒めてくれればそれで良い。
友達と遊べればそれで良い。
夢中になれるものがあるならそれで良い。
葵が私のこと何も知らなくても、 それが良いから。
葵と話せればそれで良い。
葵が学校に来たらそれで良い。
葵が生きてたら、それで良かったんだよ。
だからあたしは。
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