第10話 世界の外側
玉座の間は、静かだった。
崩れた壁も、倒れた魔物もない。
まるで、最初から戦場など存在しなかったかのように。
玉座に座る男は、剣を持っていない。
王冠もない。
「来たか」
それが、魔王だった。
「ここは?」
「世界の制御室だ」
魔王は、簡単に言った。
「お前が戦ってきた世界の、
外側に近い場所」
レインは、黙って聞いている。
「スキルとは何か、
知りたいか」
「はい」
即答だった。
魔王は、少しだけ目を細める。
「スキルは、
理解を省略する装置だ」
「人は本来、
複雑な世界を処理できない」
「だから、
世界は選択肢を減らした」
空間に、光の線が走る。
人が剣を振る。
魔法を放つ。
すべてが、
単純な分岐に変換されていく。
「強化を選ぶか」
「回避を選ぶか」
「理解する代わりに、
結果だけを受け取る」
「それで、
世界は安定した」
魔王は、淡々と語る。
「戦争は短くなり、
文明は均された」
「人は、
限界を超えなくなった」
「お前は、
その装置を使わなかった」
「理解し、
分解し、
再現した」
「だから、
想定外になった」
魔王は、
立ち上がる。
「お前には、
選択肢がある」
「私の側に来い」
「世界を、
最適化できる」
沈黙。
レインは、
自分の手を見る。
剣だこ。
傷。
血の跡。
(理解している)
(だが??)
「断ります」
短い答え。
魔王は、
驚かなかった。
「理由は?」
「理解は、
管理できません」
レインは、
視線を上げる。
「制御された理解は、
理解じゃない」
「世界は、
また不安定になるぞ」
「人は、
壊れるかもしれない」
魔王の声に、
初めて感情が混じる。
「それでも」
レインは、
言い切った。
「選ぶのは、
人です」
魔王は、
しばらく黙っていた。
やがて、
小さく笑う。
「……そうか」
「だから、
お前は厄介だ」
空間が、
揺らぐ。
玉座が、
砂のように崩れる。
「私は、
役目を終える」
「だが、
スキルは残る」
「完全には、
消えない」
「ただし」
魔王は、
消えかけながら続ける。
「絶対では、
なくなる」
静寂。
玉座の間は、
ただの空間になった。
外に出ると、
空が広がっていた。
変わらない青。
だが、
何かが違う。
スキルは、
まだある。
だが??
それだけに頼る世界では、
なくなった。
レインは、
剣を背負う。
管理者には、ならない。
英雄にも、ならない。
ただ、
理解し続ける者として。
彼が歩き出すと、
世界も、少しだけ動き始める。
その先が、
良いか悪いかは、
まだ分からない。
だが??
考えることを、
やめた世界よりは、
確かに前へ進んでいた。
スキルを持たない最強冒険者 ―理解する力が世界を壊す― 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123
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