第9話 最強の証明
王都外縁、
崩れた城壁の前。
静かに立っていた。
倒れた英雄たちの痕跡が、
地面に残っている。
「来たか」
低い声。
「スキルを持たぬ者」
レインは、
返事をしなかった。
距離を測る。
(七歩)
それだけで、
十分だった。
《断絶》が、
剣を構える。
魔力が、重なる。
加速。
強化。
予測。
三つのスキルが、
同時に走る。
??速い。
だが、
(選択している)
その事実が、
すべてだった。
最初の一撃。
レインは、
避けない。
半歩、
角度を変える。
剣は、
空を切る。
「……?」
幹部の眉が、
わずかに動く。
二撃目。
さらに速い。
三撃目。
軌道が、
変わる。
だが??
すべて、遅い。
レインは、
踏み込む。
考えは、ない。
判断も、ない。
結果だけが、ある。
剣が、
装甲の隙間に入る。
浅い。
だが、
正確だった。
《断絶》が、
距離を取る。
「理解しているな」
声に、
苛立ちが混じる。
「だが、
それだけでは??」
言葉は、
続かなかった。
レインが、
すでにそこにいる。
幹部が、
スキルを切り替える。
防御。
反射。
??間に合わない。
剣が、
心臓を断つ。
音は、
ほとんどなかった。
《断絶》は、
崩れ落ちる。
「……なぜ」
かすれた声。
「我々は、
人を超えたはずだ」
レインは、
少しだけ考えた。
考える必要が、
久しぶりにあった。
「超えたのは、
手順です」
「理解を、
省略した」
幹部の身体が、
霧になる。
「……人は、
不便だな」
それが、
最後の言葉だった。
戦場に、
沈黙が落ちる。
歓声は、ない。
誰も、
理解できない。
英雄は敗れ、
少年が立っている。
「……最強だ」
誰かが、
呟いた。
だがその言葉は、
宙に浮いたまま、
どこにも届かない。
レインは、
剣を下ろす。
勝利の実感は、
なかった。
(証明は、
終わった)
だが??
(何を、
証明した?)
城壁の影が、
長く伸びる。
レインは、
その中へ歩く。
称号も、
拍手も、
意味を持たない。
最強という言葉が、
彼を説明しなくなった。
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