第6話 追放

空気が、重かった。


ギルドの会議室は狭く、窓も少ない。

壁際に並ぶ冒険者たちの視線が、自然と一点に集まっていた。


レインは、立っている。


対面にいるのは、

ギルド職員、上級冒険者、そして??カイル。


「確認する」


職員が、書類を机に置く。


「君は、スキルが不安定になる現象を、

意図的に引き起こした可能性がある」


言葉は、慎重に選ばれていた。


「意図的ではありません」


レインは、即答した。


「観測と、検証です」


「結果として、

複数名の冒険者が負傷した」


「死亡者はいない」


一瞬、間が空く。


「……問題は、

そこじゃない」


上級冒険者が、口を挟む。


「お前の理屈が、

本当だったらどうなる」


沈黙。


「スキルを前提にした戦術、

教育、評価」


「全部、

嘘になる」


視線が、

カイルに集まる。


「同行者として、

どう思う?」


問われた瞬間、

カイルの喉が動いた。


「俺は……」


言葉が、詰まる。


(言えばいい)

(理解したことを)


だが、

それを言った先にあるものが、

見えてしまった。


仲間。

居場所。

今まで積み上げてきたもの。


「……分からない」


絞り出すような声。


「正しいかどうか、

俺には判断できない」


レインは、

カイルを見なかった。


「それで、

十分です」


そう言って、

視線を前に戻す。


「結論を出す」


職員が、紙をめくる。


「君は、

ギルド規約第七条」


「『組織の信用を損なう恐れ』により、

登録を一時停止」


「事実上の、

追放だ」


ざわめき。


誰もが、

それが何を意味するか分かっている。


単独での依頼。

護衛なし。

情報共有なし。


生き延びる確率は、

著しく下がる。


「異議は?」


形式的な問い。


「ありません」


レインは、

一切の感情を乗せずに答えた。


会議室を出ると、

廊下は静かだった。


カイルが、

後ろから追ってくる。


「……レイン」


呼び止められ、

足を止める。


「俺は……」


言葉が、続かない。


「正しい選択でした」


レインが、先に言った。


「あなたが、

俺の理論を肯定していたら」


「ここにいる全員が、

あなたを危険視した」


「それは、

あなたの居場所を奪う」


「でも……!」


「裏切り、

ではありません」


淡々と。


「恐怖です」


「理解できないものを、

排除するのは、

自然な反応です」


カイルの拳が、震える。


「……じゃあ、

お前は」


「俺は、

一人で続けます」


視線を上げる。


「理解するのを、

やめない」


沈黙。


「……すまない」


カイルが、

かすれた声で言った。


レインは、

うなずいた。


それ以上は、

何もいらなかった。


夜。


ギルドの外。


レインは、

剣を背負い直す。


街の灯りは、

変わらず明るい。


だが、

もう戻る場所はない。


(分かった)


(ここから先は、

誰も保証してくれない)


門を出る。


足取りは、

迷っていない。


スキルがなく、

仲間もなく、

ギルドにも属さない。


それでも??


理解だけは、

奪われなかった。


レインは、

闇へ踏み出した。

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