第4話 技術になるまで
訓練場は、朝が早い。
まだ人の少ない時間帯に、木剣の音だけが響いている。
カイルが剣を振り、
レインは、その少し離れた位置で見ていた。
「……どうだ?」
三十本。
いつもと同じ型。
「踏み込みが、一定じゃないです」
即答だった。
カイルは眉を上げる。
「疲れてたからな」
「三本目からです」
沈黙。
「……よく見てるな」
否定はしなかった。
依頼をこなし、
夜は宿の裏。
剣を振るのは、レインの方だった。
一回。
二回。
速さはない。
力もない。
ただ、同じ動きを繰り返す。
(ズレた)
止める。
足の位置を、指でなぞる。
地面の感触を確かめる。
もう一度。
「それ、意味あるのか?」
通りがかりの冒険者が、笑い混じりに言った。
「回数稼いでも、
スキル持ちには勝てねえぞ」
レインは、答えなかった。
(意味がないなら、
再現できないはずだ)
それだけだった。
数日後。
依頼中、魔物が想定より早く現れた。
「来るぞ!」
カイルが前に出る。
一瞬の判断。
レインは、動いた。
踏み込み。
斜め。
角度、一定。
剣は浅い。
だが、確実に当たる。
「……今の」
カイルの声が、遅れて届く。
魔物は、怯んだ。
「続ける!」
そのまま、仕留める。
戦闘後。
カイルは、しばらく黙っていた。
「……前より、安定してないか?」
「同じ動きを、
同じ条件で繰り返しただけです」
「それを、
努力って言うんじゃないのか?」
レインは、首を振った。
「努力は、
失敗の回数です」
カイルは、意味を測りかねている。
「技術は、
成功を再現できることです」
夜。
レインは、紙に線を引いていた。
・足
・腰
・剣
・視線
順番を、固定する。
(これなら、
考えなくても出る)
考えなくても出る。
それが、技術だった。
次の依頼。
複数の魔物。
乱戦。
カイルが、僅かに遅れる。
「下がってください」
レインが言った。
一歩、前へ。
判断は、速い。
(ここだ)
体は、迷わない。
剣が、当たる。
終わったあと。
「……すまん」
カイルが、短く言った。
「何がですか」
「前に出るなって、
言ってたのに」
レインは、剣を拭きながら答えた。
「条件が、変わりました」
「俺が、前より前に出られる」
「それだけです」
カイルは、何も言えなかった。
自分より後ろにいたはずの相棒が、
いつの間にか、
同じ線上に立っている。
いや??
半歩、前に。
宿へ戻る途中。
「なあ、レイン」
「はい」
「……お前、
才能があるんじゃないか」
レインは、歩みを止めなかった。
「ありません」
断言。
「できなかったことを、
できる形にしただけです」
夜は、静かだった。
努力は、
積み重ねれば報われる??
そんな言葉は、どこにもない。
ただ、
分解し、理解し、再現できたものだけが、
技術として残る。
レインは、それを拾い集めている。
スキルの代わりに。
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