第2話 スキル持ちとの差
朝のギルドは、騒がしかった。
掲示板の前に人が集まり、依頼書が次々と剥がされていく。
剣士、魔法使い、回復役。
自然と役割が分かれ、声を掛け合う。
レインは、その輪の外に立っていた。
(迷いがない)
それが、最初に感じたことだった。
「Cランク依頼、残り一枠!」
「索敵持ちはいるか?」
呼び声が上がるたび、人が集まる。
スキル名が、条件のように飛び交う。
レインは、依頼書を一枚だけ剥がした。
《森の巡回・魔物一体確認》
報酬は低い。
だが、選択肢はそれしかない。
「おい」
背後から、声。
振り向くと、軽装の剣士が立っていた。
年は、少し上だろう。
「単独か?」
「はい」
「荷物持ちなら、空いてる」
言い方は丁寧だった。
だが、目は戦力として見ていない。
「戦闘は?」
「出なくていい」
それで十分だろ、と言いたげだった。
「……遠慮します」
剣士は肩をすくめた。
「忠告だ。
スキルなしは、前に出ると死ぬ」
正しい。
否定できない。
レインは礼だけして、その場を離れた。
森に入ると、空気が変わる。
足を止め、耳を澄ます。
地面を見る。
(足跡が……多い)
一体討伐の依頼内容と合わない。
戻るべきか。
進むべきか。
レインは、進んだ。
先に戦闘が始まっていた。
火球が弾け、魔物が転がる。
剣が走り、止めを刺す。
連携は、完成されていた。
(速い)
考える前に、身体が動いている。
「……誰?」
魔法使いの少女が、レインに気づいた。
「単独の冒険者です」
剣士が一瞬、気まずそうに視線を逸らす。
「悪いな。
依頼、片づけちまった」
「いえ」
本心だった。
戦闘の跡。
レインは、倒れた魔物を見つめる。
(詠唱は、短い)
(踏み込みは、魔法に合わせてる)
理解できる。
だが、同じことはできない。
スキルがあるから成立する速さだった。
帰路。
三人は自然と並んで歩いていた。
「スキルは?」
魔法使いが、悪気なく聞く。
「ありません」
「あ……」
言葉が止まる。
それ以上、会話は続かなかった。
ギルドに戻ると、報酬は支払われなかった。
討伐済み。
それだけだ。
「文句は言えないわね」
受付嬢の声は、淡々としている。
レインは、うなずいた。
夜。
宿の裏で、剣を振る。
一回。
二回。
(勝てない)
はっきり分かる。
同じ場所には、立っていない。
だが――
(差は、見えた)
スキルがあるから強い。
それは事実だ。
だが同時に、
スキルがあるから考えていない部分も、確かにあった。
剣を止める。
(追いつけるか、じゃない)
(理解できるか、だ)
レインは、剣を下ろした。
夜は静かだった。
そして、世界は変わらず回っている。
スキルを基準に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます