【(2/3)彼:歪んだ愛】

それは、私の一目惚れだった。


職場環境が変わり、不安に胸が支配されていた私にとって、あの子との出会いは、まさに生きる希望であった。


気がつけば私は、いつもあの子を目で追いかけていた。あの子とは毎日会えるわけではなかったが、あの子と会うことは、私が出勤するうえでの、密かな楽しみとなっていた。


私は、あの子に声を掛けたかった。何度か2人きりになるチャンスはあったものの、奥手な私は、話しかけられずにいた。


それでもある日、勇気を振り絞って話しかけた。とても警戒もされたが、あの子は優しく話し返してくれた。私たちは次第に打ち解け、やがて向こうからも話しかけてくれるようにもなった。


私の気持ちはだんだんと大きくなり、気がつけばあの子のことでいつも頭がいっぱいであった。


初めて話をしてから半年ほどが経ったある日、私は、覚悟を決めてあの子に自分の想いを伝えることにした。




…だが。


上手くいかなかった。

どうやら私とは、友人関係のままでいたいらしい。私はめげずに、日を変えて何度もアプローチした。

しかし、全てだめだった。何度もめげずにアプローチを繰り返すうちに、次第に避けられるようになり、あの子に会う頻度も減っていった。


私はあの子が普段使っている駅に行ったり、家の近くまで行った。だが、全て空振りに終わった。それどころか、もはやまともに話をすることもできなくなっていた。


だから、だから、だからあの日、

私は、あの子を刺した。


私が悪いわけではない。

私に興味を示さなかった、あの子が悪い。


私の気持ちを理解してくれなかった、

あの子が悪いのだ。


―― ―― ―― ―― ――


私は、過去に人を殺めたことがある。


だから、今度はそうならないように、はじめに徹底的に調べ上げた。彼女の趣味、嗜好、交友関係、仕事、通勤経路、…徹底的に調べ上げた。


もう、失敗しない。もう、はいない。


彼女の職場に転職もした。

偶然を装い、話しかけることもできた。

事前の調査が功を奏し、無事交際が始まった。


私はやっと、を手に入れた。


だけどあの子は、私という存在がありながらも、違う男と話もするし、色仕掛けをかけているようだ。休日の予定を聞いても、ろくに教えてくれない。きっと、他にも相手がいるに違いない。


あいつも、私を馬鹿にするのか。

私を弄んで、裏で笑っているんだろう。


やはり、なのか。


絶対に、絶対に許さない。

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【短編】気がつけば、もう近くに。 文月余 @fumitsuki-amari

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