『無課金のままで』

星野 暁

第1話 Liveって何だ?

これは俺がタイトルギフターになるまでの物語だ。

ショート動画をスライドしていたら、

たまたま Live の文字が目についた。

広告でもなく、知っている人でもない。

ただ、まだ終わっていなかった。

思わず画面に手が触れる。

入室に気づいたライバーが、「こんばんは」と語りかけてくる。

反射みたいに、「こんばんは」と返していた。

コメント欄は速く流れていて、自分の言葉はすぐに沈んだ。

それでいいと思った。

アカウント名は ゆうです。

自己紹介の途中で、送信してしまったような名前だ。

「ゆうですさん、こんばんは」

画面の向こうで、俺の名前が一度だけ使われた。

嬉しかった。

それが事実だった。

理由はうまく説明できない。

たぶん、呼ばれることに慣れていないだけだ。

俺はモテない。

少なくとも、

誰かに自然に声をかけられる人生ではなかった。

「こんばんは」と返し、当たり障りのない言葉を続ける。

天気の話。

仕事の話。

相手が笑ったら、少し遅れて笑う。

うまく話せているとは思わない。

それでも、会話は途切れなかった。

仕事以外で人と話すのは、久しぶりだった。

画面の向こうにいるのは、知らない人だ。

ここでの会話が、何かを約束するわけでもない。

それでもこの時間は、確かに俺に向けられていた。

配信は、思ったよりあっさり終わった。

スマホの画面が切り替わり、部屋は元の静けさに戻る。

俺は何もしていない。

何も始めていない。

そう思いながら、さっきより少しだけ、

人と話したあとの感じが残っていた。

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『無課金のままで』 星野 暁 @sakananonakasa

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