三百六十五面相
玄関を上がり、真っ直ぐ進んだ突き当たりに、そいつは鎮座している。家人の一挙手一投足を見守り、来客の顔を気楽に眺めながら、時が過ぎるのをじっと待つ毎日である。平日は無表情の黒、土曜は安堵の薄群青、休日は家に多くの人がいて恥ずかしいのか真朱の顔といった具合で。といっても、休日も夕方になると、寂寥感の漂う茜色をしていやがるのだが。
祖母は毎朝そいつの顔をびじゃっと剥ぎ取り、ちりとり代わりにして掃除する。もし祖母が忘れていたら父が引っぺがしてメモ代わりにする。祖母も父も忘れていたら俺が古顔を退場させ、幼い頃はお絵描きの用具か、飛行機にしていた。しかし文字が透けるので絵が映えず、薄いがゆえにへなちょこ飛行機は離陸後すぐに墜落した。今となっては、高校の日本史教師の雑談「今日は何の日」のカンペにしている。点数はつかない。
そいつは毎日違う顔をしている。色、数字、六曜、旧暦、今日は何の日、それらの組み合わせ……。色々な情報をペイントしたお祭り顔。そして、当然だろ、という嫌味付き。知っているのだ。今日がどうで、明日がどうなのか。
日に日に痩せていくが、元日には復活する不死身の妖怪。そして博識かつおしゃべり。だから俺は『怪人二十面相』に準えてこう呼んでいる。
妖怪・三百六十五面相。
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